染色体異常と流産

産科を受診して確認された妊娠の10〜15%が流産となります。今回は数から流産の頻度と染色体異常について触れていきます。

妊娠が判明する前に妊娠が終了している方が流産に比べ多い

規則正しく月経がある女性100人が1ヶ月間避妊をせず夫婦生活を続けたとき、そのうち84人が受精します。ところが7日後に受精卵が着床するのは67人で、17個(20%)は着床前に到達しません。その後月経の遅れを自覚する人は38人で、産科を受診し臨床検査で妊娠と診断される人は30人です。

つまり、受精した84人のうち54人(64%)が産科で妊娠を知らされる前に妊娠が終了しているのです。妊娠がわかった後に妊娠12週以前に3人ほどが早期流産します。妊娠12週以降の流産はごくわずかです。このように、妊娠が判明する前に多くの妊娠が終了しているのです。

相当な数の染色体異常が自然淘汰されている

精子には10〜15%程度、卵子には20〜25%程度の染色体異常があることがわかっています。また受精卵の段階で30〜45%に染色体異常が存在するのです。

染色体異常の受精卵は着床障害を起こしやすく、着床できた卵の染色体異常率は約25%にまで低下します。

さらに妊娠反応陽性となり、超音波検査で胎嚢がみられる前の段階で化学的流産を除くと、胎嚢を認める段階での染色体異常率は約10〜15%にまで減少します。

その後妊娠初期の流産が起こったり、また子宮内胎児死亡などを除くと最終的に出産に至る児の染色体異常率は約0.4〜0.6%にまで低下します。

流産のすべて. 研修ノートNo.99 日本産婦人科医会

つまり、かなりの数の染色体異常が出生前に自然淘汰されているのです。

文責 院長

児の理想的な進行方向

狭い産道を通って赤ちゃん(児)は出てきます。児頭は大きいので、顎を胸につける「屈位」の状態が産道通過面に対し最小となります。別に言い方として要約すると

「児頭径線のうち最小である小斜径(suboccipitobregmatic diameter)周囲で産道を通過する」

事が狭い産道を通過するのに適しています。

小斜径は後頭結節後下方〜大泉門の距離で9.5cmとなります。

では進行方向についてはどうでしょうか。結論から申し上げると

「大斜径が骨産道軸の方向を向いている」

時になります。

大斜径(Occipitomental diameter)は頤(オトガイ)〜小泉門より3cm前方の点を結んだ径線です。

大斜径は小斜径に対しおおよそ直角に近く交わり、”Mentovertical diameter”とも呼ばれます。

なお、矢状縫合線上、小泉門より3cm前方の部分をFlexion pointと呼びます。

吸引分娩ではFlexion pointに吸引カップを当てます。要は児頭の屈位を保つ事で骨産道軸に沿った経腟分娩を目指すのです。

文責 院長

引用文献

産婦人科ファーストタッチ

英米式の回旋表現法

分娩の進行状況を診る際、児の回旋を確認する事は欠かせません。

今回は英米式の回旋表現法について解説します。

英米式についてはとてもシンプルで、児(頭)の向き[position]を表現する事で回旋を示します。すなわち『方位点を確認し、それが母体の前後(左右)どこに位置するか』というものです。

頭位のうち、(先進部が)後頭位や前頭位の場合、方位点は後頭(Occiput)となります。要は内診で後頭(実際には小泉門がメルクマール)を確認し、

後頭が母体前方(Anterior)に位置する:Occiput Anterior(OA)

後頭が母体後方(Posterior)に位置する:Occiput Posterior(OP)

とPositionを表現するのです。

ちなみに骨盤位の場合、内診では当然ながら児頭は触れませんので方位点は臀部仙骨(Sacrum)となります。

よって表現法は「SA」や「SP」となります。

では顔位/頤位の場合の方位点は?

顔位または頤位では後頭・小泉門は触れることができないので、方位点は児の顎(Mentum)となります。

第3回旋にて、児頭は「恥骨をくぐり抜ける」方向へ進む事が経腟分娩可能な条件となります。となると、前方前頭位が反屈位であるものの、経腟分娩が可能となる事を考えていただくと

・MA(Mentum Anterior)⇨経腟分娩可能

・MP(Mentum Posterior)⇨経腟分娩不可能

という事がお分かりいただけると思います[産婦人科ファーストタッチpp282-283]。

文責 院長

引用文献

産婦人科ファーストタッチ

腹帯はした方が良いのか

1ヶ月が経過し、やっと背中と首の痛みがとれました。最近は忙しく、PCを操作している姿勢が続いたり、処置中はどうしても「巻き肩」姿勢が続いていたのが痛みの原因だったようです。最近はストレッチや正しい姿勢の保持を心がけています。

姿勢に関連するトピックということで、妊娠中に訴えの多い腰痛についてご説明します。

妊娠の腰痛の機序

妊娠によりおなかが大きくなってくると、体の重心が前に移るため、上半身を反らした反り腰の姿勢で立ったり座ったりするようになります。

そのため背中から腰にかけて負担が大きくなり、腰痛をきたすのです。

対策

腹帯を着用し、腹部・腰部を支持することで姿勢の安定を取るとよいでしょう1)。

私がいう「腹帯」とは、戌の日に安産を願うためのものではなく(腰痛が出やすい時期と関係はします)、骨盤を引き締め腹部・腰部を支えるためのタイプのものを言っております。腰痛の時期によって腹帯の形は異なりますので、ご質問あれば外来助産師と是非相談なさってください。

腰痛に対し、湿布は推奨しません。どうしても薬剤等に頼りたい場合は、漢方の「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」を処方することがあります。

ACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists)は

・ヒールの低い(全てフラットのものではなく)シューズを履く

・重い荷物を持ち上げる時は誰かにお願いする

・ベッドは柔らかすぎないようにする

・立ち上がる時は背筋が真っ直ぐに保持する

・椅子に背中をサポートする用具を付ける

・痛みのある部位を把握し、マッサージをしてもらう(整体など)

ことらを推奨しています2)。

引用文献

1) 産婦人科ファーストタッチ

2) Maternal adaptations to pregnancy: Musculoskeletal changes and pain, UpToDate

文責 院長

妊娠中の体重は適切に増やしましょう

こんにちは、副院長の石田です。

当たり前ではありますが、妊娠すると赤ちゃん、胎盤、羊水や、大きくなる子宮とそれを維持するために増加した母体血液量など様々な重さが加わってくるため自然と体重は増加します。しかし頭ではそれが分かっているものの、数値として客観的に評価できてしまう“体重“を見せられてしまうとついつい太ったような気になり痩せようとしてしまう妊婦さんが少なくありません。もちろん体重が増え過ぎてしまうのが良いわけではありませんが、最近では増えなさすぎることの弊害が注目されています。そこで本日はこの問題について解説したいと思います。

日本の妊婦さん、せ過ぎ問題

突然ですがみなさんは、日本では小さく生まれる赤ちゃんがとても多いことをご存知でしょうか?2017年のOECD(経済協力開発機構)のデータによると、主要先進国の中で日本における2500g未満で生まれる低出生体重児の割合は9.4%と最も高い国の一つになっていますが、その原因として現在有力視されているのが日本人の成人女性における“やせ“です 1)。厚労省がまとめた2016年のデータでは、BMI <18.5 kg/m2の痩せている女性の割合が日本では9.3%とOECDにおいては2位の韓国(5.2%)を大きく引き離して1位になっています 2)。この数字は成人女性全般での話なので妊婦さんに限定するとどう変わるかは分かりませんが、もともと妊娠中の体重増加が小さいと早産や赤ちゃんの体重が小さくなるリスクは指摘されているため上記の傾向から言ってもこれが原因なのではないかと考えられているわけです 3)。

増やした方が良い体重の目安

妊娠中の体重増加量の目安は以下の通りです。ひと昔前は妊娠中の体重増加と妊娠高血圧症候群の発症リスクに関係があるのではないかという見解のもと日本では「増やし過ぎないでね!」という意識で指導がされることが多かったのですが、その後の研究で肥満女性以外は体重制限をしても周産期予後が改善しなさそうだということが明らかになってきたため、生まれてくる赤ちゃんのためにも「このくらいは増やしましょうね」というトーンで、より体重増加に寛容な形で2021年3月に新たな基準へと改訂されました。最近では低出生体重児で生まれた子は成長の過程で高血圧、糖尿病、精神疾患など様々な面で健康への影響が出てくる可能性が少しずつ明らかになっているため 、胎児をしっかりと育ててあげる意味でもご自身が増やす必要のある体重をしっかり確認していただき、妊娠中の無理なダイエットは控えることが大切です 4)5)。

まとめ

というわけで本日は妊娠中の体重に関するお話でした。実は本邦におけるこの問題は、2018年にもScienceという科学雑誌で日本ご指名にて指摘され、世界中に晒されたという経緯もあり見直されるに至りました 6)。「スリム=きれい、かわいい」というイメージを持つ日本人女性が多いことが問題なわけですが、その根源は女性のみならず男性側の需要が強いこともまた一因であることは疑いようもなく、それが日本人の赤ちゃんたちにご迷惑をおかけしてしまっているのはとても心苦しいことです。このような美に対する意識を変革することは容易ではありませんが、妊婦さんにおかれましては是非とも我が子の健康がかかっているのだという視点から、愛情をもってご自身の体重と向き合っていただければと思います。

1) OECD Family Database: https://www.oecd.org/els/family/CO_1_3_Low_birth_weight.pdf
2) 厚生労働省. 活力ある持続可能な社会の実現を目指す観点から、優先して取り組むべき栄養課題について:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000761522.pdf
3) Goldstein RF, et al. JAMA. 2017;317(21):2207
4) Davies AA, et al. Hypertension. 2006;48(3):431
5) Christian Loret de Mola, et al. Br J Psychiatry. 2014 Nov;205(5):340-7
6) Dennis Normile. Science. 2018 Aug 3;361(6401):440