難産とは②

先日、私院長の投稿で分娩第1期の難産についてご説明しました。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2020/02/25/難産とは①/

今回は分娩第2期の難産についてご説明します。

まず分娩第2期とは

子宮口全開大(10cm)から児が娩出するまで

をさします。1)

そして分娩第2期の難産とは

子宮口が全開大してから3時間経過しても児が娩出しない(初産婦)

(経産婦は2時間経過しても児が娩出しない)

状態です。原因として

・胎児の位置異常*

・子宮収縮が弱い

・母体の疲労

が考えられます。母体疲労と子宮収縮はお互い相関する因子であることは想像がつくのではないでしょうか。

胎児の位置異常*について、これは赤ちゃん(胎児)の頭蓋同士の骨の隙間や縫合線を触診(内診)することで児の向きを確認し判断します。比較的多いのは『不正軸』と呼ぶ位置異常で、産道に対して赤ちゃんがど真ん中を通ってない状態をさします。内診すると赤ちゃんの頭のが左右に寄っていることで診断します。

この対処として、上の図の”lunge(ランジ)の姿勢”が有効とされています。これは海外のお産に関わる教科書やサイトによく載っています。医師もしくは助産師が母胎の状態に問題ないと判断しかつご本人ができそう(気力と体力、痛みの程度を勘案してから)ならトライする価値があります。片脚を台などに乗せるだけで、赤ちゃんの軸が修正できる可能性があります。2)

難しかったら四つん這いの体勢を取ってみるのも手です。これは経産婦さんのどなたかに経験があるかもしれません。分娩第2期で胎児の位置異常があれば、自分も体位を変えてみる、コレを覚えておいてください。

分娩第2期の難産に対し、ご本人も大変なのですが、赤ちゃん(胎児)も頑張っていることを忘れないでください。胎児の状態悪化を防ぐために

・いきみの間の休息を意識し

・分娩脚台から脚を動かす

ことを心がけましょう。3)

いきみっぱなしだと赤ちゃんに酸素を供給できませんし、同じ脚の位置と体勢は大静脈を圧迫し、胎盤循環を阻害するのです。

難産、もう読んで想像するだけでも嫌ですよね?それでは最後に、分娩前に難産をご自身で予防できることは何か、それは

・過剰な体重増加の防止し

・早めの計画出産を控える

ことです。妊娠経過中の体重増加は妊娠糖尿病や巨大児のリスクが増えます。それらのリスクが増えれば胎児の位置異常*にもつながります。分娩時間が延長することで補助経膣分娩や帝王切開の可能性が高まり、実際それらが行われると、傷が増えるわけです。

また、医学的適応のない誘発分娩(計画出産)は39週以降に実施すべきで、かつ対象者は子宮頸部の熟化が良好な経産婦が望ましいとされています。4)これに関しては赤ちゃんの成熟やお産に向けて状態の把握という観点からも私も同感する所です。もちろんご家庭の事情も考慮し計画出産の日をご相談しますが、入院日の日数も医療介入も増えてしまう可能性があります。

これら難産に対する上記対策と予防が、にしじまクリニックと妊婦さんでコンセンサスが得られれば、実際のお産の時に『安産』という言葉を用いることができるかもしれません。

参考)

1)ウィリアムズ産科学原著 24版

2) https://www.babycentre.co.uk/l25025610/16-birthing-positions-for-labour-images

3) ALSOチャプターF

4) Choosing wisely® https://www.choosingwisely.org/patient-resources/scheduling-early-delivery-of-your-baby/

難産とは①

「難産になりたくない」、これは間違いなく全妊婦さんがお産の前に思うところでしょう。ではいったい『難産』ってどういうことなんでしょう?私院長が最新の知見も交えてお話しします。

今回は分娩第1期の難産についてご説明します。

まず分娩第1期とは、『陣痛が始まってから子宮口全開大までの経過・過程』です。1)

なお子宮口全開大とは、内診で子宮口10cmの所見のことを指します。

どの位の内診所見からお産(分娩)のスピードが進んでくるのか、これを理解していただくことが分娩第1期の難産を知るうえでのキーポイントとなります。ズバリ、

『6cm以上でお産は進む』

コレを覚えておきましょう。

上のグラフをご覧ください。これは陣痛・分娩進行のパターン図で、P0が初産婦、P1が1経産婦、P2が2経産婦の分娩進行の度合いになります。2)

縦軸(y軸)が子宮口開大を示しています。6cmを基準に見てください。3パターンとも、6cm以降はどの産婦も急進しているのがおわかりいただけるでしょうか。

よって内診所見が6cm以上でその後分娩がどんどん進んでいくのです。6cm以降の分娩第1期の過程を『活動期』と呼びます。

[なお、陣痛開始後から6cmまでの過程を『潜伏期』と呼びます。3)]

『活動期』に入ると初産婦や経産婦で進み方に差がありますが、大体1時間あたり2cmの子宮口開大を期待します。

子宮口全開は10cmなので、ということは『活動期』に入ってからどの位で分娩第1期を終え、分娩第2期へ移行するかは・・・、計算してみてください。

最近の研究で現代の分娩は、今から50年以上前の『フリードマン曲線』による定義(4cm以上で『活動期』と呼ばれていた)よりも『潜伏期』が長く、子宮口開大が6cmに達するまで『活動期』に至らないとされています。

上記を踏まえたうえで、では分娩第1期の難産とは何か。ズバリ、

『活動期で分娩が遷延または停止した時

となります。

少し細かく申し上げると、初産婦が活動期に入るも内診所見が1時間あたり0.3cm程度しか進まない状態のことを指します。つまり4時間経っても子宮口開大が7cm、といった状態です。

分娩第1期の難産の定義を文字通り読みとると、活動期ではなく、潜伏期は長くても『難産』とはならないんですね。とういうことは、潜伏期において、旦那さんによる分娩サポートが重要となってきそうですね・・・。

では、長いながい潜伏期、といっても陣痛はあるわけで、ご自宅でできる疼痛緩和は何があるかと申しますと、

シャワーや足浴が痛みを和らげて分娩第1期の短縮にも有効

とされています。

「陣痛が始まってからいつ入院すればよいのか」、これは非常にセンシティブな問題なので正直申し上げますと個々の状態によります。例えば初産婦さんか経産婦さんか、産院到着までの時間(日中と夜間に差が出るのも事実)がどの位か、GBS保菌にて点滴が必要か、痛みに対し無痛分娩の処置が必要か、など様々な要因があるからです。

そしていよいよ入院され、活動期に入るも『難産』となった場合、治療については

・旦那さんによる分娩サポート(ドゥーラ)

・体位変換

・水分摂取、場合によっては点滴

・破膜

・オキシトシン点滴による陣痛促進

が挙げられます。4)

以上、分娩第1期の難産についての解説でした。分娩進行が期待できる『活動期』を妊婦さんも医療従事者も理解する事がやはり大事です。でないと前駆陣痛や長時間の潜伏期を、活動性陣痛や難産と間違った診断をしてしまい、結果、必要のない医療介入や帝王切開の確率が増えてしまう可能性があるからです。

また、先程申し上げました通り、旦那さんなどの分娩サポートが難産の予防の一つに挙げられると思います。先日副院長のブログでも書いてあったように、俺のお産講座を受けていただくことで、より積極的な関わりとサポートを行うことができるのでは、と思います。

次回私院長のブログでは『難産とは②』、分娩第2期の難産についてご説明します。

参考)

1) Essential obstetric and newborn care 2015 edition

2) Zhang. Contemporary Labor Patterns. Obstet Gynecol 2010.

3) Latent phase of labor. UpToDate

4) ALSOチャプターF

落ち着いて出産を迎えるために

こんにちは、副院長の石田です。皆さんリラックスしてますか?

ということで仕事でもスポーツでも適度にリラックスして挑むと良い結果が出やすいと思いますが、これは出産にも言えることです。出産時に不安が強かったり体が過度に緊張していると痛みが強くなったり出産が進まなくなったり、状況によっては赤ちゃんにもストレスが加わりやすくなって帝王切開率が上がることがデータとして出ています 1)。

音楽をかけるといいらしい

普段から音楽を聴く人も多いと思いますが、音楽には様々なリラクゼーション効果があることが知られています。台湾のチームが行ったmeta analysisでは分娩時の女性の不安は音楽をかけると和らげられるということが証明されました 2)。これは何も経腟分娩に限らないみたいで、別の研究では帝王切開でも同様の結果が得られたようです 3)。また、分娩時から産後の痛みに対しても有効な可能性があるということでした 4)。

当院での取り組みとして

そうは言っても出産は痛みを伴うイベントなので緊張するなって方が無茶だろ!って思う人もいるかもですが、妊娠中に各自治体や病院が開催している母親学級は妊娠中から出産、最初の子育てまでを事前に見通すことができるため緊張を和らげるのに効果があることが知られています 5)。当院では全4回の両親学級を用意していますが、お母さんの参加はもちろん、お父さんの参加も大歓迎です。特に+@で用意している「俺のお産講座」と題した講座ではお父さんがいかにお産に関わるかということをテーマにしてお話しさせていただいています。また、よりリラックスした環境でお産の瞬間を迎えていただくために普段からアロマセラピストが皆さんに最適な香りとマッサージをお届けしています。

更に言うと、当院の1番の強みはクリニックというコンパクトな規模で診療を展開していることから病棟も外来も、あるいはアロマセラピスト、事務、そして清掃スタッフに至るまで全員が皆さんのことを直接的、間接的に知っていて、最前のケアを普段から話し合っているということです。患者さんが病院に来ていただいた時に普段から顔を知っているスタッフがいること。それによって入院時もシームレスに皆さんにケアを提供できることは大きな病院には難しい一人ひとりに寄り添った診療を可能としていますし、それは医学的な見地からも皆さんにできるだけリラックスしていただきながらお産をスムーズに進めるのに効果があると考えています。

最後に

にしじまクリニックでは院長をはじめとして、全てのスタッフが患者さんが無事に出産を終えて退院されるためにこういったきめ細やかな心配りを心がけています。もちろん状況次第では難しいご対応もありますが、何かご希望があれば是非お気軽にご相談ください。

1) Mehdizadeh A, et al. Am J Perinatol. 2005; 22: 7-9

2) Lin HH, et al. PeerJ. 2019 May 15; 7: e6945

3) Hepp P, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2018 Nov 3; 18(1): 435

4) CH Chuang, et al. J Adv Nurs 2019 Apr; 75(4); 723-733

5) M Firouzbakht, et al. Ann Med Health Sci Res. 2015 Sep-Oct; 5(5): 348-352

つわりのあれこれ

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。今年もよろしくお願いします。

年末年始で食べすぎてしまった方もいる反面、今回は『つわり』について投稿しようと思います。

妊娠初期の方の共通した悩みはつわりですね。食欲低下、嘔気、嘔吐はイメージにあると思いますが、その他頭痛や唾液量の増加、眠気など人によって様々な症状が出ます。何でせっかく妊娠したのにこんな苦行を強いられるのかと元気な旦那さんを横目に理不尽さを感じている世の女性も多いかと思います。

つわりとは何なのか

人によって程度の差はありますが、何らかのつわりの症状を呈する妊婦さんは全体の50〜80%くらいと見積もられています。特に3%くらいの妊婦さんでは健康に支障を来すような体重減少や脱水症状になる妊娠悪阻という状態まで発展することがあります。個人差も去ることながらマクロで見るとアジア人と中東人で特に多いと言われていて、中国の統計では10%の方が妊娠悪阻に罹るというデータもありますが、実際のところつわりと妊娠悪阻の境界線は曖昧で、国際的に統一された診断基準があるわけではないため実態は不明です。ただ、共通した認識として若年、初産婦、有色人種などがリスクファクターになると言われています 1)。その他うつ病の人は重症化しやすいとか、ホルモンが関係しているとか、ピロリ菌や遺伝子的な関連も示唆されていますが決定的なことはほとんど分かっていないようです 1)2)3)。

つわりの治療

嘔気に対して吐き気止めのお薬を出すこともありますが(欧米では対抗癌剤用の強いやつを使うこともあります)、妊娠が根本原因なので結局治療は対症療法のみです。中には分娩までずっと気持ち悪さが残る人もいますが普通は妊娠中期頃には良くなってくるのでじっとそれを待つことになります。最も気をつけなければいけないのは脱水で、生命維持に必要な水分やミネラル、ビタミンなんかが足りなくなってしまう時は点滴をして補います。また、ビタミンB6が症状を和らげるというデータもあるためご相談の上で処方することもあります。個人でできることとしてはショウガが吐き気を減らすのに効果があると言われているので試してみるといいかもしれません(食べられればだけど。)4)5)。

まとめ

というわけで分からないことだらけのつわりのお話でした。周りの人からは「つわりなんて皆乗り切ってるんだから頑張って!」とか言われるかもしれませんが、本人からしたら「そんなの分かってるけど他人とか関係なく私は今しんどいんだよ!」というのが本音でしょう。私たちから言わせるとつわりの症状の重さやそれぞれの妊婦さんの耐性は様々であり、人と比べてどうとかいう話ではありません。当院では患者さんの症状とご希望に応じて外来での処方、点滴から入院まで柔軟に対応できますので、特にかかりつけの方はお気軽にご相談いただければと思います。

最後に

私の奥さんは妊娠中に出産まで吐き気が抜けず辛そうにしていました。初期に唐揚げは食べられたのでずっとそればかり口にしていたのですが、生まれた子供が3歳くらいになった時に初めて唐揚げを食べさせたところ、「ぼく、この味知ってる!」と言い出してびっくりしたことがあります。知り合いのところもリンゴで同じ現象が起きたと言っていました。本当に関係があるのかは分かりませんが、今つわりで苦しんでいる皆さんにも近い将来にそういうこともあるかもしれませんので苦しい中でもそれを楽しみにして食べられるものを探してみてはいかがでしょうか?

1) London V, et al. Pharmacology. 2017; 100(3-4): 161-171

2) Grooten IJ, et al. Am J Obstet Gynecol 2017; 216: 512. e1-e9

3) Li L, et al. Gastroenterol Res Pract 2015; 2015: 278905

4) Viljoen E, et al. Nutrition J 2014; 13: 20, 2891-13-20.

5) ACOG Practice Bulletin. Number 189, January 2018

硬膜外麻酔(概論)

硬膜外麻酔とは、硬膜外腔に局所麻酔薬を注入して分節麻酔を行う方法です。硬膜外腔とは背骨の中を通る脊髄という太い神経の膜一枚外側にある空間で、この場所に麻酔薬を注入します。英語では”epidural”なので、医療者には「エピ」と呼ばれることもあります。

無痛分娩に硬膜外麻酔を使用する時には、本格的に陣痛がついてきたら(目安としては子宮口4~5cm開大時)カテーテルと呼ばれる細い管を背中から針を刺して硬膜外腔に留置します。その際に誤ってクモ膜下腔(硬膜外腔の先)に入っていないかの確認をしたり、試験投与として少量の麻酔薬を注入して異常が出ないか確認します。その後患者さんの状態に問題なければ本格的に鎮痛用量のお薬を使用していくことになります。

帝王切開の術後鎮痛を目的に使用する場合には、手術前に脊椎クモ膜下麻酔と一緒に導入します。お腹を切る手術の後は通常痛みが強くなりがちですが、硬膜外麻酔があると特に手術日をとても楽に過ごすことができます。

リスクとして特に気にしなければいけない重篤なものは薬のアレルギー、局所麻酔中毒、全脊髄麻酔、硬膜外血腫・膿瘍や脊髄損傷による下肢の感覚障害など、なんだか恐そうなものが並びますが、いずれも頻度の違いはあるものの数万〜数十万分の1程度と、とても稀です。

にしじまクリニックでは日本産科麻酔学会に所属する、経験を積んだ常勤の医師が麻酔を行なっており、施設としても埼玉県では最も早くJALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)に登録されております。 ご希望の際は無痛分娩、帝王切開ともお気軽にご相談ください。

(副院長執筆、一部院長加筆。12月2日公表)