こんにちは、副院長の石田です。
先日、高校生の女の子が産んだ赤ちゃんを遺棄したとして逮捕される事件がありました 1)。亡くなられた赤ちゃんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
さて、日本では未成年女性の妊娠を「若年妊娠」と定義しています。厚労省の発表では、令和2年に6948人の未成年女性(内、37人は14歳以下)が出産されましたが、現代日本では若年での妊娠・出産に多くの難しさがあるのは事実です 2)。そうは言っても妊娠を素直に喜び、出産に向けて前向きに進んでいけるカップルがほとんどで、そういう場合は若いなりの強みを活かしながら妊娠・出産・育児とこなしていかれることが多いですが、稀に予期せぬ妊娠で行き詰まってしまうこちらのニュースのような若い女の子もいるので、本日はそういう時のことについて書いてみようと思います。
ちなみに若年妊娠のリスクについて
若年妊娠ではそれ以上の年齢層での妊娠と比べて医学的なリスクが大きい可能性が指摘されています。具体的には低出生体重児や早産児が生まれる確率が高まるほか、新生児死亡も増えるというデータが示されています 3)4)5)。母体の方にも重症妊娠高血圧症候群による子癇発作や重症感染症、そして産後もうつ病になるリスクが高まる可能性が考えられています 6)7)。これらは未成熟な体に妊娠の負荷が重いせいもあると思いますが、それに加えて様々な理由で十分な妊婦健診を受けなかったり、医療施設外で出産に至ってしまうケースがあることも影響しているでしょう。
未成年女性が予期せぬ妊娠に気づいた時にまずすべきこと
中学生や高校生で自分が妊娠していることが分かったらパニックになる人が多いでしょう。親や先生には相談しにくいかもしれないし、かと言って同年代の友達に話したのが周りに知られたらかえっておおごとになってしまうかもしれません。恐らく冒頭の女の子もそうやって誰にも話せず悩んでいるうちに取り返しがつかないことになってしまったのだと思います。この問いに絶対的な正解はないのかもしれませんが、私のお勧めは「とにかく産婦人科を受診する」です。自宅で妊娠反応が陽性に出た場合、どういう形であれほぼ間違いなく妊娠はしています。妊娠していなくても偽陽性が出るということはレアな例外を除いてまずありません。その時点でするべきことはその妊娠が正常妊娠なのか、そして現在が妊娠何週なのかを知ることです。もし異所性妊娠(子宮外妊娠)であれば放っておくと大出血が起こって命に関わることがありますし、正常妊娠であったとしても妊娠22週を過ぎると中絶という選択肢が取れなくなります。妊娠してるかもと思ったけど恥ずかしくて妊娠検査薬を購入できずに悩んでいる場合も同様です。産婦人科には妊娠検査薬があるので病院で検査してもらいましょう。
受診した後にどうなっていくか
正常妊娠の診断となり週数が確定した後は22週未満であれば妊娠を継続するかどうかの意思確認があります。22週を超えている場合は法律上の取り決めから出産する以外に選択肢はありません。初診はご本人のみで大丈夫ですが、それ以降は中絶、妊娠継続どちらの道を選ぶにしても親のサポートが必要になります。これは未成年者の場合、あらゆる医療行為に対してご本人に加えて親の同意が必ず求められるからです。さらに言うと未成年妊婦がパートナーと入籍できない場合、出産後の赤ちゃんの親権はその女性が成人するまで赤ちゃんから見た祖父母に帰属することとなっており、そういう意味でも親に内緒で全部終わらせるというのは不可能なんですね 8)。ただ、ご両親が他界している、虐待から避難しているなどの場合は地域行政との連携のもと、別途対応していくことになります。
そのほかのよくあるご心配
金銭的な不安から受診を控えてしまう人もいらっしゃいますが、妊娠は放置してしまうと最終的にかかる費用が大きくなる傾向があるのと、お金に関しては後から解決できることが多いのでまずは病院にかかることが大切です。別に赤ひげ先生が無料で全部やってくれるというわけではありませんが、本当に支払いが難しい状況では地域行政やNPOの支援を得られる可能性が高いためです。また、出産まではできたとしてもその後の育児が不可能な場合は特別養子縁組を利用してその赤ちゃんを必要としている人たちに譲ることも可能です。いずれにしても産科医療施設はあらゆるケースに対応するノウハウを蓄積していることが多いので、とにかくまずは我々プロに相談してください。
まとめ
当院でも10代の妊婦さんはいらっしゃいますが、しっかりと妊婦健診を受けていただいている場合はむしろスムーズなお産で終わることも多いです。加えて育児は体力を使う作業ですのでそういう意味では若さがメリットになるという側面もあり、10代での妊娠が必ずしも不利なわけではもちろんありません。ただ、若い女の子が期せずして妊娠してしまった時に“未成年 妊娠“で検索してこのブログに辿り着いて、とりあえず産婦人科を受診してもらうきっかけになればと思って書かせていただきました。でも、何より大切なのは社会がそういった人たちを孤立させないことです。もし周りに妊娠したかもしれない女の子がいたら、優しく声をかけてあげてください。
1) https://news.yahoo.co.jp/articles/92bb21e2c0fffab8edd31c9a33234e92a7e27dbe
2) 厚生労働省 人口動態の概況:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/index.html
3) Fraser AM, et al. N Engl J Med. 1995;332(17):1113
4) Rees JM, et al. Pediatrics. 1996;98(6 Pt 1):1161
5) Phipps MG, et al. Obstet Gynecol. 2002;100(3):481
6) Ganchimeg T, et al. BJOG. 2014;121 Suppl 1:40
7) Siegel RS, et al. J Pediatr Adolesc Gynecol. 2014;27(3):138
8) 民法第833条