母乳育児は赤ちゃんだけでなくお母さんの体も守ってくれる

こんにちは、副院長の石田です。

母乳が赤ちゃんの健康にとても大切なことは有名です。赤ちゃんにとって必要な栄養がほとんど入っているし、初乳には免疫成分も含まれているため赤ちゃんを感染症からも強力に守ってくれます。その一方で母乳育児がお母さん側にもメリットがあることは意外と知られていません。ということで本日はこの件についてお話ししていきたいと思います。

母乳をあげると糖尿病になりにくくなる

母乳で育てられた子供は肥満になりにくいことが広く知られていますが、実は母乳をあげる母親にも糖尿病の発症予防効果があることが知られています 1)。メカニズムとしては代謝やホルモンの要素やストレスの影響なんかも考えられていますが、詳しいことはまだよく分かっていないようです 2)。ただ、糖尿病は進行すると失明や腎不全、四肢末端の壊死など人生の質を著しく損なう病気であり、発症リスクが減るのは有難いですね。

母乳をあげると高血圧や心臓発作になりにくくなる

母乳育児は糖尿病だけでなく母親の血圧上昇も防いでくれるようです 3)。このメカニズムとしては妊娠・出産により心臓血管系に負担がかかった体を授乳が元に戻してくれるのではと考えられています(諸説あり)。また、別の研究では授乳歴のある女性では無い女性と比べると心筋梗塞など実際の心血管疾患の発症率が10%以上低いという結果が出ていました 4)。どうやら授乳は心臓や血管を健康に保つのに重要な役割を果たしてくれているようです。

母乳をあげるとがんになりにくくなる

母乳育児を行った女性は行わなかった女性に比べて将来的な乳がん、卵巣がん、子宮体がんの発生率が減少するというデータがあります。具体的には乳がんで4%以上、卵巣がんで18〜44%程度、子宮体がんで11%程度のリスク低減効果が臨床研究で確認されました 5)6)7)8)。これらは授乳によって生理・排卵周期の回復が遅れることが理由と考えられていますが、ポイントは授乳期間後にもがんの発生率を抑え続けてくれるということで、これは大きなメリットなんじゃないかと思います。

まとめ

母乳というとどうしても赤ちゃん側の恩恵が注目されがちですが、実はお母さんの健康にとってもメリットの大きい育児法なんだよというお話でした。母乳は原則としてお産後の女性からしか出ませんので、どうしても産後半年から1年くらいは母親への育児負担が大きくなりがちです。乳頭が傷ついたり乳腺炎になったりとトラブルもある中で理不尽さを感じる女性も少なくないかもしれませんが、逆に上記のようなメリットを享受できるのも母乳をあげられる女性だけです。医学的な理由等で授乳ができない方は難しいですが、そうでなければ是非心折れずに赤ちゃんとの時間を楽しんでみてください。

1) Aune D, et al. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2014;24(2):107.
2) Bhakti Karla, et al. J Pak Med Assoc. 2015 Oct;65(10):1134-6
3) Binh Nguyen, et al. PLos One. 2017 Nov 29;12(11):e0187923
4) Lena Tschiderer, et al. J Am Heart Assoc. 2022 Jan 18;11(2):e022746
5) Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. Lancet. 2002;360(9328):187
6) Islami F, et al. Ann Oncol. 2015;26(12):2398.
7) Ana Babic, et al. JAMA Oncol. 2020 Jun 1;6(6):e200421
8) Jordan SJ, et al. Obstet Gynecol. 2017;129(6):1059

5〜11歳の新型コロナワクチン接種

本日から長女のクラスが学級閉鎖になるようです。最近は新型コロナウイルスの家族内感染も問題となるなか、もしお子さんに感染したら、病状の悪化をできるだけ抑えたいと思うのは、どのご両親も思われることだと思います。

先週から日本でも5〜11歳のお子さんに新型コロナワクチン接種が可能となりました。以下ポイントをまとめておきます。

・経緯:2021年10月、アメリカのFDAはファイザー製の5〜11歳用の新型コロナワクチンを認可しました。これは2000人以上のランダマイズドトライアルのデータにおいて、91%以上が新型コロナウイルスに対して有効で、かつ成人データの結果と同様との判断とされました。よってCDCはこのワクチン接種を『推奨(recommendation)』となり、日本も続いてこの小児用ワクチン接種が可能となりました(COVID-19 vaccination in children 5 years and older, UpToDate, November 2021)。

・製剤は小児(5〜11歳)専用:コミナティ筋注5〜11歳用:キャップがオレンジのものです。-60度以下なら9ヶ月間保存可能です。

・接種量は12歳以上で接種する量の1/3:希釈し1回接種量が0.2mL(10μg)で

接種間隔は12歳以上と同様で3週間あけ、計2回接種します。

・結論;

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/child/

ニューイングランドジャーナルの文献では、このワクチンは5〜11歳に安全かつ有効に新型コロナワクチンに対しての免疫応答、いわば抗体が得られると結論づけています。

以下厚生労働省と埼玉県のサイトも是非ご覧になってください。(院長執筆)

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/child/

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19/parent.html

子育て本の紹介:学力の経済学

こんにちは、副院長の石田です。

先日も子育て本のご紹介をさせていただいたのですが、外来で「先生がブログで紹介してた本、読みました」って言ってくださった方がいらっしゃったのに気を良くして、本日も1冊ご案内してみようと思います。

学力の経済学

こちらは教育経済学者の中室牧子先生が書かれた本です。教育経済学とは応用経済学の一分野で、主に大規模なデータを用いてそれぞれの教育法が子供たちにとってどんなメリット・デメリットがあるのかを科学的に検証する学問です。
自分も含めてですが、教育については十人十色に考え方がありますよね。たまにSNSなんかで「勉強は何故必要なのか」という命題が投稿されるとたくさんのリプライがついたり場合によっては炎上してしまっているのを目にします。本書の第1章では「教育は「一億総評論家」状態である」としていますが、これは誰しもが様々な形で教育を受けて大人になったことから少なからず自分なりの成功・失敗体験を持っており、そこを根拠にしてそれなりに語れることが関係しているでしょう。しかし、それらはサンプル数=自分1人(+自分の子供の数?)という極めて弱い統計学の上に成り立っています。そこで調べる子供を数千、数万人と増やしていってみると、意外と自分が思っていたのとは異なる傾向が浮かび上がってくることがよくあるんですね。
・子供をご褒美で釣ってはいけないのか?
・子供をどのように褒めると効果的なのか?
・勉強をさせたい時にはテレビゲームを制限するべきなのか?
・どのような能力を伸ばすのが一番子供の将来のためになるのか?
・どんな教員のもとだと子供の将来に良い影響があるのか?
など、親であれば誰でも悩んだことがあるようなトピックについて、主観ではなく科学的なデータに基づいて客観的に教えてくれるのが本書なのです。

非認知能力(ちょっとネタバレ)

私がこの本を読む中で特に印象に残ったのは第3章でした。皆さんは認知能力と非認知能力についてご存知でしょうか?認知能力がIQや学力テストで計測される能力であるのに対して、非認知能力とは忍耐力、社交性、意欲などの数値では測れない「生きる力」の部分です。どちらが大切かと問われれば直感的に非認知能力と答える人が多いと思いますが、実際それは正解なようで認知能力以上に非認知能力の差が学力や収入、社会的地位や犯罪率などの改善に影響があると言うデータがあるそうです。また、認知能力は獲得してもその後メンテナンスしないと(勉強し続けないと)経過とともに減衰していく一方で、非認知能力は一旦身についてしまえばその効果は長く持続するのだそうです。特に未就学児に効果的な教育ができた場合は、その子の将来にわたる社会還元率が最大化されるらしいのですが、具体的な計算によると4歳児に100円教育投資した場合、成長して65歳になった時に6千円〜3万円の価値になるということだそうです。

まとめ

というわけで本日は「学力の経済学」と言う本についてご紹介いたしました。本当はもっといっぱい書きたいんだけど、あんまりやると全部ネタバレになってしまうのでこの辺にしておきます。大きいデータを使用する時の注意は、その研究が示すのは飽くまで全体の傾向であって個別の結果を保証するものではないと言う点ですが、闇雲にインフルエンサーの根拠のない持論についていくよりはずっと再現性があるのかなとも思っています。本書では直接触れていないような「習い事は何をさせたらいいんだろう?」といった悩みについても、読む人によってはヒントを得られるような内容になっています。興味のある方は是非手にとってみてください。

※下記リンクはアフィリエイト化されていません。

https://www.amazon.co.jp/「学力」の経済学-中室-牧子/dp/4799316850/ref=nodl_

新型コロナワクチン非接種妊婦の予後

現在、オミクロン株による新型コロナウイルスが猛威を奮っている状況で、にしじまクリニックにおかかりの妊婦さんやそのご家族も例外ではありません。当院も埼玉県産婦人科医会のリエゾンシステムに基づき、感染者や濃厚接触者に毎日健康状態を確認させてもらっています。

以前から基礎疾患もつ方や妊娠中の方は、新型コロナウイルスに感染すると予後不良とされていましたが、とりわけワクチン非接種だとより危険であることがスコットランドのおよそ8万8000人妊婦の追跡調査で示されました。

https://www.science.org/content/article/covid-19-starkly-increases-pregnancy-complications-including-stillbirths-among?utm_campaign=Gadi&utm_source=AAAS&utm_medium=Facebook

ワクチン接種が始まった2020年12月以降にスコットランドで妊娠した8万7694人が対象(2021年10月までの追跡調査)です。

新型コロナウイルスに感染し、1ヶ月以内に出産した620件のうち、14件が子宮内胎児死亡もしくは新生児死亡が起こったと報告しています。その14件全てがワクチン非接種妊婦であったとのことです。

この(周産期)死亡率は1000件出産のうち22.5という比率になり、スコットランドの本来の1000件出産のうち5.6の比率を大きく上回ります。

また新型コロナウイルスに感染した妊婦は、早産率が2%ポイント上昇したとも報告しています。

新型コロナウイルスに感染し集中治療が必要になった妊婦の98%がワクチン非接種とのことでした。

(院長執筆)

生まれた後の赤ちゃんの頭の形について

こんにちは、副院長の石田です。
産婦人科では通常、ご出産後1ヶ月健診まで赤ちゃんの状態をチェックしますが、その際によくお母さんから出るご相談が赤ちゃんの頭の形のことです。絶壁になってしまったり、左右で形が違ったりすると見た目もさることながら赤ちゃんの発達に影響が出るんじゃないかと心配になりますよね。そこで本日はこの件についてお話しさせていただきます。

赤ちゃんの頭蓋骨は柔らかい

そもそも赤ちゃんの頭ってとても柔らかいですよね。実際に触るとわかるように頭蓋骨はペコペコしているし、頭頂部の前後に大泉門と小泉門という2つの穴まで開いています。これは生まれたばかりの赤ちゃんの頭蓋骨は何枚ものパーツに別れているためです。成長とともにこれらがくっついて隙間のない頭蓋骨になるのですが、これには、赤ちゃんは産道というとても狭い通路を通ってお母さんから出てこないといけないので、分娩時に頭蓋骨が重なり合うようにして頭のサイズを小さくする必要があること、そして赤ちゃんの脳みそは生まれた後もしばらく成長して大きくなるため頭蓋骨の容量も増えないといけないという2つの理由があるためです。こうして生まれてしばらく柔らかいままの赤ちゃんの頭蓋骨は、寝かせておくと接地面が平らになってしまいやすいわけです。加えて向きグセがあったりすると特定の方向に形が歪んでいってしまうんですね。

家庭での対処法

見た目の問題はともかくとしてほとんどの場合では頭の形が多少歪んでいても医学的には脳の発達などに影響は無いとされています 1)。さらにお座りができるようになってくると頭への圧がかからない時間が増えてくるので自然と形が整うことも多いです。ただ、そうは言っても「それなら何でもいいや」とはなりにくく、我が子の頭をできるだけ丸くきれいに仕上げたいというのが親心ですよね。そこで家庭でも試せる対処法として、まずは抱っこがあげられます。特に縦抱きをすると赤ちゃんの頭に圧力がかからなくなるため頭が平らになりにくくなります。抱っこだと腕が疲れてしまうという場合はしばらくうつ伏せにしておくという方法もありますが、うつ伏せ寝は乳幼児突然死症候群のリスクとされていますので、その間は赤ちゃんから目を離さないようにしておきましょう 2)。それ以外では頭の向きを定期的に変えてみたり、首が動くようになったら向きグセがついているのとは反対方向から窓の光や音といった刺激を入れてみるのもいいかもしれません。

まとめ

というわけで本日は赤ちゃんの頭の形についてのお話でした。ここまで特に問題ないよというトーンで解説しましたが、斜頸を含めて医学的なバックグラウンドを伴う頭蓋骨の変形では発達に悪影響が出る懸念があるのも事実です 3)。そういった子の場合、上記のような方法で矯正が難しい時には医師から特別なヘルメットの処方を含めて積極的な介入が提案されることもありますので、うちの子大丈夫かな?と心配になるようであれば積極的に小児科医に相談してみましょう。

1) American Association of Neurological Surgeons: https://www.aans.org/en/Patients/Neurosurgical-Conditions-and-Treatments/Positional-Plagiocephaly
2) Carl Cummings. Paediatr Child Health 2011;16(8):493-494
3) Inaki Pastor Pons, et al. Ital J Pediatr 2021:47:41