妊活中のご夫婦へ 〜風疹抗体検査を受けましょう〜

こんにちは、副院長の石田です。

当院には日頃から妊活に関するご相談で来院される患者さんが多くいらっしゃいます。妊活というとなかなか授からないカップルによる不妊・不育に特化した施設への受診が思い浮かばれるかもしれませんが、実際にはこれから妊活に入るご夫婦の相談なんかも多くお受けしています。そんな中でいくつか決まってアドバイスをすることの一つに風疹抗体検査があります。意外と知られていませんがとても大切なことですので、本日はこれについてお話ししようと思います。

先天性風疹症候群を知っていますか?

風疹は「三日麻疹」とも呼ばれるウイルス感染症で本家の麻疹と違って子供から大人までほとんどの人が軽症で終わるそれほど怖くない疾患ですが、妊婦さんが風疹に感染すると胎盤を経由して赤ちゃんに甚大な健康被害が出る病気です。赤ちゃんに出現する臨床症状として有名なのは難聴、白内障、心臓奇形の3つですが、それ以外にも小頭症や心身の発達障害、肝臓や脾臓の腫大など様々な影響が出ることが知られており、多くの症状はそのまま一生残るとされています。予防接種がこれだけ普及した現代の日本であっても散発的な流行が観察されていること、また子供の頃に予防接種を受けても大人になって風疹抗体が減弱してきてしまう人が多くいらっしゃるのが分かっていることから必ずしも油断できない感染症だと言えます。

風疹抗体検査を受けましょう

と、言うわけで妊娠前には夫婦で風疹への備えを万全にすることが大切です。埼玉県では妊娠を目指す女性とその同居者に対して、一定の条件を満たす場合に風疹抗体測定を無料で提供しています。詳細は県のウェブサイトでご確認いただきたいのですが、対象となる方は当院を含む検査実施医療機関を受診して検査を受けることができます。事前に申し込み書類を印刷、記入して受診するよう書いてありますが、にしじまクリニックでは院内に書類を用意していますのでご家庭にプリンターが無い方でも来院していただければ大丈夫です。結果は1週間ほどでご説明できますのでご希望の方は是非お問い合わせください。

本事業対象外の方へ

あいにく本事業の対象者に当てはまらなかった場合でもご希望の方は受診していただければ有料で抗体測定をすることができます。それか、そもそも検査→結果確認→抗体値が低ければワクチン接種というステップを踏むのが時間的に難しかったりめんどくさかったりする方は、抗体検査をせずにいきなりワクチンを接種してしまうのもありです。(実際私は子供の時にワクチン接種済みでしたが、妻が長男を妊娠したときに抗体検査をせずに再度ワクチンを接種しました。)いずれにしても当院でご対応可能ですので、外来でどちらがよいかご相談しましょう。

当院ではMRワクチンを提供しています

当院で普段使用しているのはMRワクチンといって、風疹に加えて麻疹の抗体もつく製剤です。麻疹はコロナでも話題の「基本再生産数」が12~18と考えられており、いわゆる「すれ違っただけで感染する」タイプのウイルスである上に、症状も重篤になることが多く命に関わる感染症です。この麻疹に対しても抗体を付け直すことができるため、直接自分が妊娠しない人達であっても十分に健康上のメリットを期待できるワクチンです。実績としても安心・安全が証明された製品ですのでご心配なくお受けいただくことができます。

まとめ

本日は妊活を考えている方々に向けてのご案内でした。妊娠を目指す女性本人がワクチンを接種した後は2ヶ月間の避妊期間を設けることが必要ですので、ご結婚前であっても計画的に風疹抗体検査を受けられることをお勧めいたします。その他にも妊娠・出産に向けての不安や疑問があれば、ご予約の上で是非お気軽にご相談ください。

遷延分娩

本日は『遷延分娩』についてお話させてもらいます。

まず、「子宮口が全開大」とは「子宮口が10cm」のことをさします。そこから分娩第2期、いよいよ赤ちゃんが出てくる過程となりますが、すぐに児が娩出するわけではありません。子宮口全開大でも多くの場合は第2回旋は終了していないのです。

第2回旋が終了(矢状縫合が縦の位置)し、恥骨の下をくぐり抜けるように第3回旋(第1回旋の反屈)が行われて赤ちゃんの頭が出てきます。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2020/09/07/赤ちゃんの進み方②、回旋(かいせん)を知る/

(↑ 『回旋』についてのブログはこちら

では遷延分娩について。

遷延分娩とは「分娩第1期活動期または分娩第2期が異常に長く経過している状態」をいいます。

分娩第2期における遷延分娩の基準は、

初産婦は2時間以上

経産婦は1時間以上

分娩が停滞することを日本産科婦人科学会では定義・基準としています。

近年、ACOG(the American College of Obstetrics and Gynecologists)は分娩第2期遷延を

初産婦は3時間以上

経産婦は2時間以上

分娩が停滞することとし、産科救急のトレーニングを提供するALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)はこの新基準を採用しています。CTG所見が問題なければ、また母体の状態が許せば早い医療介入を行うより自然経腟分娩率が増える可能性があることはご想像いただけるでしょうか。

不要な医療介入、特に帝王切開を避けるため、CTG所見などに問題がなければ、分娩第2期に怒責を行い始めるタイミングや積極的な医療介入は、最近では上記の新基準に沿って今までより1時間遅くすることも考慮されています。

分娩第2期の遷延分娩の原因としては

・Dynamic dystocia:微弱陣痛(hypotonic uterine dysfunction, weak pain)

・分娩第2期における母体疲労などからの怒責不十分

・回旋異常

・CPD(CephaloPelvic Disproportion):児頭骨盤不均衡

が挙げられます。

初産婦さんで子宮口が全開大後も2または3時間経過しても分娩に至らない場合は医療介入が必要となります。

分娩第2期の遷延分娩に対する医療介入 *転載禁止

医療介入のフローチャートとしては上の図のようになります。詳細はまた後日のブログに譲りますが、いずれにせよ児頭下降と回旋の正確な評価は大事です。次回私院長のブログでは児頭下降評価の一つである、エコーによる”Progression angle”についてお話しさせてもらいます。

おひなまき

こんにちは、副院長の石田です。

みなさん、「おひなまき」ってご存知ですか?英語だと”swaddling”と言いますが、赤ちゃんをガーゼタオルやシーツなどで繭みたいにコンパクトに巻くやつです。もともとトコちゃんベルト®︎でお馴染みの株式会社青葉のおくるみ用メッシュ布の製品名だったということですが、現在では赤ちゃんの体を丸く包む方法の呼び名として定着しました 1)。ネットで「おひなまき」と検索すると写真や動画付きの分かりやすい解説がたくさん出てきますが、実際に上手にできると赤ちゃんが吸い込まれるように眠ってくれるので子育て疲れのご両親にとっては必殺技みたいなインパクトがあります。そんな便利なおひなまきですが、実は気をつけなければいけないこともいくつかあります。今日はそのことについてお話ししようと思います。

おひなまきと赤ちゃんのリスク

アメリカ小児科学会が出している”Bright Futures”という子育てのガイドライン本があるのですが、その中では「おひなまきは赤ちゃんを落ち着かせるのに有用な技術だが、その一方で全般的に勧められるものではなくなってきている。」としています 2)。その理由として代表的なものに予期せぬ乳幼児突然死(SUID)や先天性股関節脱臼のリスクが上がる可能性が指摘されています。

おひなまきと予期せぬ乳幼児突然死(SUID/ 乳幼児突然死症候群(SIDS

適切に使用されれば突然死のリスクはそれほど上がらないという研究もありますが、その一方でうつ伏せになるとリスクが12倍程度に上昇することも報告されています。うつ伏せ寝はただでさえ突然死のリスク因子として有名ですが、それに加えておひなまきをされていると手足が動かせずに仰向けに返れないことが危険度を増しているのかもしれません 。ここまでで既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、おひなまきによる突然死の危険は寝返りを打てるようになると高まると考えられています。赤ちゃんは通常5〜6ヶ月くらいで寝返りを打つようになるため(ちなみに医師国家試験では「5656(ゴロゴロ)寝返り」と覚えます。)3〜4ヶ月にはおひなまきを卒業しようねとしていることが多いですが、もう少し早く寝返りできるようになる子もいるため先述のガイドラインでは生後2ヶ月を過ぎたらやめることや、そもそも寝かしつける時にはおひなまきを解くことが勧められています 2)3)4)5)。

おひなまきと先天性股関節脱臼

出生前〜出生後の発育過程で股関節の脱臼が起こる疾患ですが、最近では出生後の要素も注目されるようになったことから発育性股関節形成不全と呼ばれるようになりました。この疾患とおひなまきの関係が複数の研究で指摘されており、特にきついおひなまきを長い時間行うとリスクが増加すると考えられています 2)3)6)。また、日本でも巻きつけるタイプのオムツが主流であった1965年以前では先天性股関節脱臼の罹患率が高かったというデータもあり、やはり足の動きを固定してしまうようなものはあまり良く無いのかもしれません 7)。そのため最近では足を自由に動かせるように緩く巻くのをお勧めされることもあります。

まとめ

というわけでおひなまきのリスクについてお話ししました。おひなまき自体は泣きじゃくる赤ちゃんが気持ちよさそうにおとなしくなったり、場合によってはスッと寝付いてくれるため育児による両親の消耗を防ぐためには有用な技術です。そして何より見た目がとても可愛いですよね。我が家でも幾度となくおひなまきに助けられました。なので頭ごなしに「やめましょう」と言うつもりはありませんが、この記事を読んでいただいたみなさんには上記のリスクも十分にご理解いただいた上で上手におひなまきを使っていただければと思います。

1) 株式会社青葉ホームページ:https://tocochan.jp/howtouse/ohina/

2) Paula M. Duncan, et al. Bright Futures. Guidelines for health Supervision of Infants, Children, and Adolescents. Fourth Edition. American Academy of Pediatrics.

3) Bregje E van Sleuwen, et al. Pediatrics. 2007 Oct;120(4):e1097-106.

4) Antonia M Nelson. MCN Am J Matern Child Nurs. Jul/Aug 2017;42(4):216-225.

5) Anna S Pease, et al. Pediatrics. 2016 Jun;137(6):e20153275.

6) A Kutlu, et al. J Pediatr Orthop. Sep-Oct 1992;12(5):598-602

7) T Yamamuro, et al. Clin Orthop Relat Res. 1984 Apr;(184):34-40

コロナワクチン接種が不安な妊婦さんへ(6月21日時点)

・妊婦は新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)のワクチンを接種しても大丈夫なのか

海外からの経験と情報から、現在日本でおかれた状況を鑑みると、ワクチンを接種することのメリットはデメリットを上回ると考えられています。一般の方と比較しても副反応に差はなく、流産や早産などの危険性は自然発生率と差がないという報告もあります。

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会は、「感染の多い地域や感染のリスクが高い職場、糖尿病・高血圧・気管支喘息などの基礎疾患を合併している方はぜひ接種をご検討ください」と声明を発表しています。

また妊娠中や授乳中の方々のみならず、妊娠を計画中の方々の接種も「問題ない」と見解が上記学会らからの声明が6月17日にありました。今後、妊娠の確認の初診時に「もう既にワクチン1回目接種したのですが」という質問を多くいただくことが予想されますが、その際は予定どおり2回目を接種して構いません。

しかしながら妊娠週数や社会的背景などからワクチンに対する考え方は人それぞれです。にしじまクリニックではそのようなご心配な方に対し個別で外来またはオンライン診療でご相談をさせていただいております。

・コロナワクチン接種前に確認すべきこと

健診・外来の時に、ワクチン接種前に医師へ確認しましょう。

接種の予診票には「現在妊娠している可能性はありますか、または授乳中ですか」という質問項目がありますので、「はい」をチェックし、接種会場の医師にも伝えてください。

・副反応について

一般の方と妊婦さんとの差はありません。

接種後発熱や頭痛があった場合はアセトアミノフェンの内服をお考えください。

・里帰り先など住民票と異なる居住地で接種を受ける場合

住所地外接種届の提出は不要です。

・その他のワクチン接種との間隔

まず、現時点では他ワクチン(産婦人科領域では風疹ワクチンやHPVワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンなど)と同時接種はできません。新型コロナウイルスワクチンを接種した2週間後は他のワクチン接種の投与が可能となります。

(院長執筆)

避妊方法の選び方

こんにちは、副院長の石田です。

セックスにおいては様々な性別間での営みがありますが、妊娠に限っては(生物学的な意味での)女性の体にのみ起こります。その前提として受精が必要であるため避妊に関しては両性がしっかりと意識して取り組むべきではあるものの、肉体的な負担は全て女性が負うことを考えると女性が主体的に取り組む方法を知っておくことはご自身を守るためにも大切なことです。そこで本日は避妊方法の選び方についてお話ししたいと思います。

各避妊方法の特徴

日本で広く選択される避妊方法とそれぞれの特徴を以下にまとめてみました。「避妊失敗率」は1年間その方法を行なった場合の妊娠率です。

1)2)3)

それぞれに長所と短所がありますが、本日は産婦人科で提供される避妊方法ということで子宮内避妊具と経口避妊薬の適応について簡単にご紹介します。

子宮内避妊具がおすすめの人

子宮内避妊具は小さなT字形の器具にホルモン剤が添加されているミレーナ®︎がよく使われます。メリットはなんと言ってもその避妊成功率の高さと通院の手間の軽さです。子宮内に器具を留置するというと抵抗感を覚える方は少なくありませんが、一旦入れてしまえば最終的には年1回のフォローのみで5年間使用できます。ピルと違って飲み忘れもありませんし、原則的に効果は子宮内だけなので全身的な副作用が起こりにくいです。初期費用として8万円前後かかりますが、ピルであれば5年間で10万円以上かかることを考えるとお得ですね。ちなみに妊娠を希望する場合は器具を抜けばすぐに妊娠可能な状態に戻ります。ミレーナ®︎をお勧めするのは例えば
1)今後4年以上は確実に妊娠を防ぎたい
2)喫煙している
3)薬を毎日飲むのが苦手
4)持病などの問題でピルを使えない
5)30代後半、特に40代以降(ピルの副作用発生率が高くなるため)
という人たちになります。
逆に子宮内避妊具を使用しにくいのは、大きな子宮筋腫があるなど器具を安全に挿入しにくい人です。

経口避妊薬(ピル)がおすすめの人

ピルの魅力は比較的高い避妊効果のほか、付随する副効用にも大きなメリットがあるところです。具体的には表にあるように月経関連症状の改善やいくつかの悪性腫瘍に対する予防効果、そしてニキビの改善なども期待できます。
1)月経前症候群や生理不順などで困っている
2)悪性腫瘍の予防効果も得たい
3)子宮内膜症の診断を受けた
4)ニキビに困っている
5)まだ性交渉の経験がないが、今後に備えて避妊対策を行いたい
という人たちはピルの良い適応でしょう。一方でピルが使えない、使いにくい人の項目は多岐にわたりますので、ご自分がどうなのかはかかりつけの産婦人科でご相談してみてください。

コンドームの有用性

意外にコンドームの有効性が低いと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、これはコンドームだと適切に使用することが難しく、挿入中の滑脱や破損により適切な避妊ができないことも多いためです。その一方でコンドームは最も有効な性感染症の予防方法としての側面もあります。そのため二人が確実にパートナーを固定できている場合を除いては薬や器具を使用した避妊法に加えてコンドームを使用することが推奨されます。

まとめ

というわけで少し長くなりましたが本日は避妊方法についてのご紹介でした。避妊具のメーカーである相模ゴム工業の調査によると、初交年齢(初めてのセックスを経験する年齢)は少しずつ低年齢化しており、現在の20代では男性で18.9歳、女性で18.5歳とされています 4)。(ちなみに当院のある埼玉県は20.5歳が平均で、都道府県別で全国35位だそうです。)これを踏まえると10代以降の女性では自分に合った避妊法を把握しておくことは大切だと思います。もし当院でのご相談を希望される場合はお気軽にお問い合わせください。

1) Steiner MJ, et al. Am J Obstet Gynecol. 206;195(1):85.

2) Trussell J. Contraception 2011;83:397

3) Sundaram A, et al. Perspective Sex Reprod Health 2017;49:7

4) 相模ゴム工業株式会社:https://sagami-gomu.co.jp/project/nipponnosex/experience_sex.html