NTとは

NTとは

NTとは”Nuchal translucency”の略で、妊娠初期の胎児矢状面でみえる後頸部透亮像のことです。

〔The Fetal Medicine Foundationホームページから〕

簡単に申し上げると、

妊娠11〜13週あたりに、赤ちゃんの頭から胸の部分をエコーで縦切りの像を写し出して、その像での”赤ちゃんの首のむくみ”をさします。

(上の写真もご参照ください)

なぜNTを測るのか

通常でもNTは確認できます。しかし一定基準を超えるNTの厚さは赤ちゃんの染色体異常、特にトリソミーの可能性が考えられるのです。

NTの計測時期

先程の記載どおり、NTの計測は妊娠11〜13週に行います。

妊娠14週を超えると赤ちゃんの大きさに対するNTの基準値が定まっていなかったり、NTはいわゆる”むくみ”なので次第に消失してしまうこともあるので計測としては不正確となります。

にしじまクリニックでは妊娠13週の妊婦健診にNTを計測することになりました(先の初期検査時期にNTを見つけて計測する場合もあります。赤ちゃんの大きさにかかわらず、NTが3.5mmを超える場合は他の染色体異常のマーカーの計測や妊娠初期の胎児心臓スクリーニングを周産期センターへ依頼するためです。)。これは単にトリソミーに対する出生前診断のマーカーとしてみているだけでなく、もう一つの頸部浮腫である嚢胞性ヒグローマ(Cystic hygloma)の有無を確認します。

妊娠と交通事故

こんにちは、副院長の石田です。

先日長男の小学校の当番で下校の見送りをしてきました。子供達が無事帰ったのを見届けて自分も帰ろうとしたら、横断歩道で信号無視して突っ込んできた乗用車に跳ね飛ばされました。幸い軽傷で済みましたので、本日は妊婦さんと交通事故について書こうと思います。

交通事故の現状

日本では少なくともここ10年くらい、交通事故がどんどん減ってきています。警察庁の発表 1) によると平成30年度の交通事故発生件数は約43万件で、前年比にすると4万件以上減っており、さらには平成20年度と比較するとほぼ半減しています。死亡事故件数についても同様の傾向があり、発生件数は3,449件ですが、やはり平成20年度と比較すると68%です。最近高齢者による暴走運転が頻繁に話題になりましたが、全年齢層で死傷者数も減少しています。そういえば先日外傷外科の医師と話をした時に、昔と違って車がとても安全になったおかげで仕事が激減していると言っていました。ちなみに妊婦さんだけに焦点をあてた統計は無いので詳しい数は分かりませんが、ガイドライン 2) によると妊婦さんの事故死亡は年間10人程度、負傷者は年間7,817人、胎児死亡は年間800人という推計もあるそうです。

妊婦さんの安全のために

交通事故の数が減っているとはいえ、未だに毎年犠牲者が出て悲しい想いをされている方がいらっしゃいます。妊娠していると42%増しで交通事故にあいやすい 3) という研究もありますが、例え軽い事故であっても割と胎児死亡につながりやすいということも言われているので十分な注意が必要です 4) 。そうは言ってもどんなに注意していたって起こってしまうことがあるということで、せめて軽傷で済むようにと以下のシートベルトの装着方法が推奨されています 2) 。

1. 肩ベルトと腰ベルトの両方を装着する

2. 腰ベルトは子宮の真上を横断しないように腰骨の低い位置を通す

3. 肩ベルトも子宮を避けておっぱいの間から子宮の上側で通す

4. ベルトの緩みが無いようにピッタリとフィットさせる

5. 運転席の場合は子宮とハンドルの間に空間ができるようにシートを調整する

まとめ

特に地方であるほど車は生活にとって欠かせません。「いつまで車に乗っていいですか?」という質問もよく患者さんから受けますが、明確な制限は無いもののやはりお腹が大きくなってくるほど自分のボディーイメージと実際の姿が乖離してくるため事故にあいやすくなる恐れがあります。人生はリスクに溢れており、交通事故の可能性も0にすることは不可能ですが、できるだけ安全に配慮して快適なカーライフをお過ごしください。

1) 警察庁 平成30年中の交通事故の発生状況; https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031800894&fileKind=2

2) 産婦人科診療ガイドライン 産科編2017

3) Redelmeier DA, et al. CMAJ 2014; 186: 742-750

4) Neil JM, et al. Am Fam Physician 2014 Nov 15; 90(10): 717-724

妊娠分娩に関わる言葉の定義

本日のブログは私院長が妊娠分娩に関わる言葉の定義を一部ご紹介します。

産婦

産婦とは「分娩期にある女性」のことをいいます。

また、

妊婦とは「妊娠期にある、いわゆる妊娠中の女性」を、

褥婦とは「分娩後、分娩後の影響がまだ認められる女性」のことをいいます。

『妊産婦』とは母子保健法の第六条(用語の定義)に「妊娠中又は出産後一年以内の女子」と定義されています。

褥婦としての産褥期間が産婦人科学では通常6〜8週間ととらえる1)のに対し、母子保健法では産後1年までなんですね。メディアの方々はニュースなどで情報を発信される際に是非とも知っていただきたい定義です。

また、

初産婦とは「妊娠22週以降の分娩を初めて経験する産婦」、

経産婦とは「既に妊娠22週以降の分娩を経験したことのある産婦」

をいいます。

5回以上分娩したことがある方は「多産婦」とよばれます。

妊娠22週という区切りは現在のところ、出産して児の治療が可能な最小週数を示しており、以下定義に続く「周産期」や、人工妊娠中絶の適応でも関連します。

周産期(Perinatal period)

WHOによる医学分類リストであるICD-10では「妊娠22週に始まり出生後7日未満で終わる」と定義され、日本でもこれを採用しています。

妊娠、分娩回数の数え方

1)妊娠回数の数え方

現妊娠を妊娠回数に加えます。

例えば、1度お産を経験された経産婦さんが新たに妊娠しました。この場合「2妊1産」または「G2P1」と表現されます。

Gは”Gravida”または”Gravidity”、

Pは”Para”または”Parity”の略です。

2)分娩回数の数え方

妊娠22週に達した後に娩出したものを分娩回数に算入します。

3)多胎における妊娠、分娩回数の数え方

多胎は双胎(双子)であれ品胎(三つ子)であれ、妊娠回数は1、分娩回数も1とします。

例えば、1度お産を経験されたのが双胎妊娠で、その経産婦さんが新たに妊娠したとします。この場合も「2妊1産」または「G2P1」となるのです。

参考文献

1) 産科婦人科用語集・用語解説集 改定第4版

赤ちゃんの進み方③、骨盤の形を知る

赤ちゃんの進み方第3段、ひとまずの完結編として、今回は『骨盤の形』にフォーカスしたいと思います。

図 骨盤の形〔産婦人科の必修知識 から〕

骨盤の形もいろいろありまして、お産に関して骨盤の正面・入口面を大まかに4つの形に分けて産科医は骨盤のレントゲンを確認しています。

a.女性型:名前のとおり、一番理想な形です。前後と横の径がほぼ一緒なので、赤ちゃんの頭(児頭)がどんな進入でもお産が進んでいきます。

b.細長型:横の径より前後の径が長く、特に第1回旋の時に赤ちゃんの頭が反屈する回旋異常が起こりやすいです。ただし前後径は長いので、第2回旋は起こりつつ児頭の下降は進んでいきます。

d.男性型:横の径が長いタイプです。第1回旋はすんなりいくのですが、そのまま児頭が下降して第2回旋が行われない『低在横定位』と呼ばれる状態が起きやすいです。回旋の補助をし吸引もしくは鉗子分娩を行えば経膣分娩可能なことが多いです。

c.扁平型:これが一番やっかいな骨盤です。見た目も4タイプ中一番狭そうなのがお分かりいただけるでしょうか?骨盤内が狭いので、赤ちゃんの頭の骨同士が重なりあって下に降りようとしていきます。分娩時の障害も起こりやすいです。

初めてお産にのぞむ方は、骨盤の形を知ることが実際のお産に役立つ情報の一つとなります。

初産に加え他の因子として、身長が145cm未満の方や体重が増えすぎている方は、誘発分娩が必要な時までに骨盤撮影を行ってこの先の加療がreasonableか、骨盤評価を行うことは産科医にとって一つのツールであるべきだと私院長は考えます。

赤ちゃんの進み方②、回旋(かいせん)を知る

赤ちゃんは狭い骨盤を通過しお産となるので、骨盤内では回旋(かいせん)、つまり骨盤の中を周りながら降り進んでいきます。本日はそのお話です。

回旋を知るには骨盤の形による条件と、赤ちゃんの向きの指標を知っておく必要があります。

まず骨盤の形です。骨盤入口面は横に長い楕円の形を成しています。一方出口面は縦長となります。

それに対し、赤ちゃんの頭(児頭)の形は縦長です。よって骨盤をくぐり抜けるためには、

骨盤入口面では児頭は横向きで入ります。しかも入口部は骨盤内で一番狭い空間があるので、通常赤ちゃんはアゴを胸側に引きつけるような向きに曲げます。これを『第1回旋』と呼びます。

骨盤出口面は縦長なので、赤ちゃんは横向きから次第に正面・縦向きへ方向を変えながら下降していきます。この過程を『第2回旋』と呼び、私院長の前回ブログ内容の『エンゲージメント』を経て第2回旋が進んでいきます。ちなみに、第1回旋(横向き)から第2回旋(縦向き)へ回る角度は90度となります。

これらの回旋を正確に知るためには赤ちゃんの頭を触り、向きを特定するのです。

赤ちゃんの頭のてっぺんには左右の骨が合わさる矢状縫合という直線状のわずかな隙間があり、その前側には『大泉門(だいせんもん)』、後側には『小泉門(しょうせんもん)』という骨同士の間の大きなスペースがあります。

私の左手を使ってシェーマを描いてみました。私の左手が児頭だと思ってくださいね。

左手の甲が赤ちゃんの後頭に相当し小泉門があります。一方前頭・額らへんに大泉門があります(あると思ってください)。ちなみに握った指側が顔面になるとしてくださいね。

以下の写真は私たちお産に関わる医療スタッフの視野を想定しています。つまり妊婦さんが分娩台に載り、スタッフが分娩介助をしている時、児頭はどうやって回旋しているかをみるシェーマです。白のリングは産道(腟)だと思ってください。

引き続き左手を使っています。よって回旋が始まる前、赤ちゃんの背中は妊婦さんの左側となります。

まず第1回旋から。児頭は屈曲して後頭部である小泉門が先進します。これによって横長である骨盤入口へ児頭が入ることができます。その後骨盤は出口部まで縦長のスペースへなるので、第2回旋が始まります。

第2回旋は先進部である小泉門が反時計(右上)へ回り母体前方、いわゆる恥骨側へ回旋します。この時に先日お話ししたエンゲージメント・Station “0”の状態を経て、児頭の下降は進んでいきます。この時子宮口は大体7cm前後でしょうか。第2回旋が終了した時点で後頭部(小泉門)は恥骨側・12時方向の位置となり児頭の正面・縦向きが整います。この時子宮口は既に全開大(10cm)でいよいよお産となります。

第3回旋は第1回旋の逆向きになって児が娩出するものなので、この場合児は反屈して恥骨をくぐり抜けるように児頭が産道(腟)から娩出します。

最後の第4回旋は第2回旋の逆向きに肩が回ります。よって通常は第1回旋と同じ向きへ赤ちゃん顔が見えるように回旋し、つまり今回の例では妊婦さんにとっての左側に赤ちゃん顔があり、全ての回旋を終えるのです。