COVID-19 まとめ③:検査について

こんにちは、副院長の石田です。

本日はコロナウイルスの検査についてです。最初に言っておくと、ちょっとややこしいです。

検査方法の解説とPCRの限界

新型コロナウイルス感染を疑われた患者さんは、一般的にPCR(核酸増幅法)という手法でウイルスの遺伝子を検出することによって診断を確定します。検体は主に喀痰を使用しますが、痰が出ない人は喉や鼻の奥を綿棒で拭って採取することもあります。PCRという言葉がこの1ヶ月くらいで広く社会に浸透した印象がありますが、それと同時に偽陽性、偽陰性なんて言葉もよく耳にしますよね。これらの言葉が「病気じゃないのに検査が陽性に出てしまう」、「病気なのに検査が陰性に出てしまう」という状況を示していることをご存知の方も多いと思いますが、実際にどのくらい問題になるのでしょうか?そこで本日は一緒に計算してみようと思います。

まず、上記を検証するには検査の質を決める感度(感染者の何%を陽性と診断できるか)、特異度(健康な人の何%が陰性と診断できるか)、そして罹患率(検査する人の何%が本当に感染しているか)の3つの数字が必要になります。PCRの感度、特異度は諸説ありますが、本日は「両方とも99%」という超高性能検査として扱ってみましょう。対象は全東京都民とし、罹患率は1%と仮定してみます。東京の人口は計算しやすいように1000万人としますが、罹患率1%であれば10万人が既に感染していることになるので一刻も早い感染者の同定が必要ですね。

計算にはこちらの表を使用します。縦が病気の有無、横が検査結果です。まず、全検査対象数である10,000,000を右下に入れます。

続いて罹患率が1%なので感染者数:100,000人と健康な人の数:9,900,000人をそれぞれ記入します。

感度99%なので病気の100,000人中99,000人が陽性判定(1,000人が陰性)となり、特異度99%なので健康な9,900,000人中9,801,000人が陰性(99,000人が陽性)になります。

すると検査陽性の人の総数は99,000+99,000=198,000人、検査陰性の人の総数は1,000+9,801,000=9,802,000人になりました。

さて、これを見て既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、なんと検査陽性の人の半数は本当は感染していません。これを統計用語で「陽性的中率」(この場合は50%)といいます。そして割合は低いですが検査陰性の人の中にも1,000人もの感染者が潜んでいることになります。実はこれこそが流行当初から、専門家がこぞって「検査を無差別にやってはいけない」と言い続けていた理由です。今回の試算は感度・特異度ともに99%(超高スペック)、加えて都民が既に10万人感染しているという条件でやっているにも関わらず惨憺たる結果になりました。これをより実際の数字に近いであろう感度60%、特異度90%、罹患率0.1%に置き換えて再計算してみると検査陽性者中、本当の感染者の割合は0.6%程度になります。病院には残りの100万人近い偽陽性の患者さんまでもが一緒に殺到し、一瞬で医療崩壊が起こるわけです。孫正義社長の100万検査キット配布が実現するとまずかったのはこういうことでした。さらに実際の検査では、感染者から採取した検体にウイルスがちゃんと入っているかも問題になります。ウイルスは主に下気道といって肺の奥にたくさんいるのですが、とある研究によると感染者の喀痰ですら72%、上気道の拭い検体では僅かに32%しかウイルスが検出されませんでした 1)。以上のようにPCR検査自体は弱点だらけなのです。

PCRの弱点を補完するために

ではどうしたら良いのでしょうか?実は上記の計算中にその答えがあるのですが、検査を受ける患者さんが実際に感染しているであろう確率(検査前確率)を上げておくことで偽陽性の問題は大きく改善します。もちろん患者さんに1日人の集まるところで過ごしていただいてから検査するということではなく、本当に感染が疑われる人にだけ検査をするということです。最初の試算では罹患率1%と仮定した集団に検査を行いましたが、例えばコロナに感染している確率80%の人だけに絞って検査をした場合、感度60%、特異度90%だとしても陽性的中率は96%まで改善します。そしてこの検査前確率を引き上げる方法こそが、以下の厚労省からのご提案だったというわけです。特徴的な症状がある人だけに検査をすることでより正確な結果を得ようとしていたんですね。もちろん検査をめんどくさがっていたわけではありません。

その他胸部CT検査の方がPCRより感度が良いかもという報告もあるようですが、その一方でアメリカ放射線学会はCT上の肺炎像がコロナウイルスだけの特徴的なものではないことから第一の検査として使用することには否定的です 2)3)4)。

まとめ

というわけで随分と分かりにくい話だったと思いますがいかがでしたでしょうか?もし「コロナにかかったかな?」と思っても、余裕がある場合は少し様子を見てみるのも大切だということがご理解いただければ幸いです。そもそもコロナウイルスの検査は医療者は完全防御のうえ、陰圧室という特別な施設で検体を採取する必要があるため一般的な医療施設では実施することすら不可能ですので、いきなり病院に行っても検査してもらえるわけではありません。調子が悪かったり、受診するべきか迷った場合は上記の通り最寄の帰国者接触者相談センターへ電話で相談してみましょう。

1) Wang W, et al. JAMA 2020 Mar 11.

2) Fang Y, et al. Radiology. 2020 Feb 19.

3) Ai T, et al. Radiology. 2020 Feb 26.

4) ACR Recommendations for the use of Chest Radiography and Computed Tomography (CT) for Suspected COVID-19 Infection