子宮筋腫と妊娠について

こんにちは、副院長の石田です。

よく外来で、妊婦健診やがん検診などの時に偶然見つかることが多い子宮筋腫ですが、いきなり筋腫があると言われるとびっくりしてしまう人も少なくありません。本日はそんな子宮筋腫と妊娠についてお話ししようと思います。

その前に子宮筋腫とは

子宮筋腫とは文字通り子宮にできる筋肉の塊です。子宮はもともと“平滑筋”という筋肉で大部分ができていますが、その細胞が部分的に異常増殖してできる腫瘍が子宮筋腫と言われます。婦人科腫瘍の中では最も頻度が高いと言われており、日本人での正確な統計は無いものの、報告によっては50代までの白人女性の70%、黒人女性においては80%に発生するとの報告があります 1)。 30〜40代の女性に多く、女性ホルモンで成長するため雑に言うと生理がある限り少しずつ大きくなってきますが、逆に閉経すると少しずつ小さくなっていきます。

子宮筋腫があると妊娠にどんな影響があるの?

胎盤との位置関係やサイズなどによって妊娠への影響に違いがありますが、一般的には切迫流早産、骨盤位(逆子)、前置胎盤、常位胎盤早期剥離など様々なリスクを上げることが分かっています。また、筋腫自体も妊娠中に大きくなることがあり、それに伴って変性痛という強烈な痛みを1〜2週間起こすこともあります。しかも妊娠中は出血などのリスクのために原則的に筋腫の治療ができないため特定の患者さんたちにとっては非常に厄介な疾患なのです。

とか言うと、「じゃあ筋腫があったら妊娠しない方がいいってこと!?」と言いたくなりますが、上記の通り婦人科で最も多い腫瘍の一つであり、知らないで抱えている人も結構多いです。実際の子宮筋腫合併妊娠の頻度は12.5%くらいあるという報告もありますが、多くの妊婦さんが筋腫がありながら無事にご出産されていますので、注意して診ていく必要はあるものの、過度に心配しなくてもよいということになります。

子宮筋腫があるのが分かっていて妊娠を希望する場合はどうしたらいいの?

これは一概にお答えするのは難しいですが、一般的にはサイズが5〜6cmを超えるもの、過多月経や月経困難症など症状を起こすもの、また不妊の原因になっていると思われるものなどは手術を含めて積極的に治療を検討することが多いです。「え?不妊の原因になるの?」と思われた方、そうなんです。筋腫がある人と無い人では、ある人の方が妊娠率が低く、流産率は高いんですね。もちろん位置やサイズなんかにも影響されるんですが、特に子宮の中に飛び出してくるタイプはその差が顕著だと言われています 2)。

ただ、子宮筋腫を手術で摘出すると子宮に傷がつき、修復する過程で壁が薄くなることからその後の妊娠で子宮破裂のリスクが高まると言われています。そのため原則的には帝王切開での分娩が必要です。また、術後は子宮の傷を治すために半年程度の避妊期間を置くことが多いため、高年齢の患者さんの場合には特別な配慮が必要です。そういった関係で実際に治療をするかどうか、どのような方法で治療するかは個々の患者さんの状況に応じてご本人と医療者がよく相談をしながら決めることが多いですね。

筋腫にはどんな治療があるの?

一番シンプルなのは手術です。筋腫だけを取り除く“核出術”と子宮全てを取ってしまう子宮全摘出術があり、それぞれお腹を大きく開ける開腹術と小型カメラと専用の棒みたいな器具でお腹に小さな穴を開けるだけでやる腹腔鏡手術があります。

また、完治できるわけでは無いけどGnRH アゴニストというホルモンに働きかける注射で小さくすることもできます。注射は月1回、最大半年間の治療になりますが、最近は似たような作用を持つ飲み薬も発売されました。ただ、飲み薬は新薬ということもあり2週間に1回病院に通って作用、副作用をチェックしながら処方を受ける必要があります。ちなみにどちらも良い薬ではあるんですが、ちょっと値段が高いです。

まとめ

子宮筋腫は婦人科的には“ありふれた”病気ですが、出てくる症状は多彩で気づきもしない人が多い反面、重い症状に悩んでいる方もたくさんいらっしゃいます。自分にもあるのかな?と気になった方、また生理が重かったり妊娠しづらいなと思う方は子宮筋腫の可能性も考えて最寄りの婦人科を受診してみてはいかがでしょうか?

1) Day Baird D, et al. Am J Obstet Gynecol 2003; 188: 100-107

2) Klatsky et al. Am J Obstet Gynecol 2008; 198: 357-66