続発性無月経に対する薬物療法の意義

続発性無月経、それに伴う月経周期異常を認める場合、まずは生活指導を行います。それでも改善の見込みがない場合は薬物療法となりますが、治療目的別で使う薬剤は異なります。

多嚢胞性卵巣症候群で排卵周期の回復目的→カウフマン療法:カウフマン療法を2〜3周期行うことにより、ホルモン動態の正常化・排卵障害の改善を期待できる可能性があります1)。

カウフマン療法は「月経周期の5日目から21日間エストロゲン製剤を内服し、そのうち後半プロゲスチン(黄体ホルモン)製剤を併用」する方法が一般的です。最終月経初日から28〜33日頃に消退出血が起こるようになります。処方箋の複雑さや内服コンプライアンスを考慮し、『後半の内服薬』はエストロゲン・プロゲスチン配合剤の1剤で代用することもできます。これは第2度無月経を知るうえでの「エストロゲン・ゲスターゲンテスト」と同様です。

その後、挙児希望にて積極的な排卵誘発を行う場合はクロミフェン療法、メトホルミン療法、ゴナドトロピン療法を行います。

多嚢胞性卵巣症候群で子宮内膜の保護作用(消退様出血を促す)→ホルムストローム療法

多嚢胞性卵巣症候群でもご自身の体からエストロゲンが分泌されている場合はカウフマン療法の選択ではなく、黄体ホルモン製剤のみを使用するホルムストローム療法を行うこともあります。

黄体ホルモン製剤は多くの種類があり、中には排卵抑制効果を有するものもあります。薬物療法を続けるにあたってご自身に合う製剤か確認することも必要でしょう。

続発性無月経のうち、3-4ヶ月以上の無月経を見過ごすのは子宮内膜の保護の点から懸念されることであり、毎月ではなくとも3ヶ月に一度に黄体ホルモン製剤の投与(内服または注射)し消退様出血を起こす選択もあります。

妊娠は考えておらず、排卵も抑制したい→エチニルエストラジオールを含有する低容量ピルをおすすめします。

なお欧米では「カウフマン療法」や「ホルムストローム療法」という言葉のなじみが薄く、月経周期異常の1st choiceはピルを選択されることが多いです。

避妊も目的、しばらく家族計画がない成人女性→ミレーナ®︎挿入をおすすめすることもできます。

筋腫など器質疾患がないのに急に異常子宮出血が続き一時的な止血を行いたい→中容量ピルであるプラノバール®︎を内服してもらいます。これはカウフマン療法で述べた『後半の内服薬』でもあります。

以上、少しややこしいかもしれませんが、月経周期異常や続発性無月経を指摘され、ホルモン補充療法を提示された場合は

何の目的で行うのか、

最適な治療法を選択しているか、

どこまで薬物療法を続けるべきか

治療を提示された医師にしっかりとしたお話合いをしていただき、ご自身の状態に合った指針を見いだしていただくことが大切だと思います。

文責 院長

参考文献

1) 百枝幹雄. 女性内分泌クリニカルクエスチョン90(診断と治療社).

本当の分娩第3期の積極的管理

産後異常出血を防ぐために、「分娩第3期の積極的管理」を行われている施設が多いと思われます。今回はその中身についてお話です。

分娩第3期の積極的管理は大きく4つの方針が定められています。

1.オキシトシンの点滴

産後の子宮収縮を促すために子宮収縮薬であるオキシトシンを投与します。投与時期は文献によって様々な記載がなされていますが、ALSOプロバイダーマニュアルでは児の前肩が娩出してすぐに投与してよい1)、としています。一般的には児を娩出してからまもなくオキシトシンを投与する施設が多いと思います。この投与タイミングは産後異常出血の予防だけでなく、胎盤の自然剥離を促す目的でもあるのです。

なお、オキシトシンの投与遅延は胎盤遺残の原因ともなるので注意が必要です。

2.臍帯切断の遅延

新生児蘇生の対象とならなければ臍帯切断をすぐに行うのではなく、1〜3分経過してから臍帯切断を行うのがよいとされています。新生児の貧血等の改善・予防を期待するためです。

これは産後異常出血の予防ではなく、赤ちゃんによりそった分娩第3期管理といえるでしょう。ただし、これに関しては確立したエビデンスがまだなく、議論がなされている最中です。

3.適切な臍帯牽引による胎盤娩出

子宮底ではなく、恥骨上縁から手を乗せ子宮前壁を確認し、同時に臍帯を無理のない程度で正しい角度の臍帯牽引を行い胎盤を娩出します。これは’Brandt-Andrews(ブラント・アンドリュース)法’という手技になります。

4.胎盤娩出後の子宮マッサージ

胎盤娩出後、子宮をマッサージして子宮の再収縮をはかりつつ、子宮内腔の出血の排出を促します。文献として「どの位の時間子宮のマッサージを行ったら有効なのか」詳細な記載はなく2)、元々はオキシトシンを使えないような地域で産後出血を予防するための古典的な手技ではありますが、逆にこれを行わず分娩を終えてしまうと産後出血に対する初期診療のアプローチが遅れてしまいます。よって当院では担当助産師と担当医師に必ず行うよう伝えています。

文責 院長

参考文献

1) ALSOプロバイダーマニュアル第9版(英語版)

2) G Justus Hofmeyr, Uterine massage for preventing postpartum haemorrhage

産婦人科ファーストタッチ

癒着胎盤、付着胎盤、嵌頓胎盤

胎盤は児娩出後5〜15分以内に剥離し娩出されます。しかし30〜45分経過しても胎盤が娩出されない場合は胎盤の娩出遅延と言えます。近年は産後異常出血の予防のために分娩第3期の積極的管理として胎盤の自然剥離を待つより正しい臍帯牽引を用いた胎盤娩出を行います。

胎盤の娩出遅延として考えられる状態は以下となります。

癒着胎盤:胎盤が子宮壁に癒着し、胎盤剥離が起こらないものをいいます。

胎盤は絨毛膜の一部が成長することで作られます。この時母体側(子宮側)の脱落膜は絨毛の子宮筋層内への侵入を防ぎます。何らかの原因(リスク因子として帝王切開既往、子宮内掻爬術の既往、前置胎盤など)で脱落膜が欠損すると絨毛組織は直接子宮筋層内に侵入し、癒着胎盤となるのです。

付着胎盤:胎盤が子宮壁に付着しているが子宮筋層との結合が密でなく、脱落膜の欠損を伴わず「真の癒着胎盤ではない」状態です。

嵌頓(かんとん)胎盤:組織上での脱落膜と子宮筋層の関係は問題ないのですが、児の娩出後子宮頸部・下節がけいれん性の過度の収縮が起こり、胎盤の娩出が困難な状態です。

胎盤娩出遅延の場合、子宮内検索と胎盤用手剥離術を試みます。

参考文献

産科婦人科用語集・用語解説集

産婦人科ファーストタッチ

文責 院長

産後新型コロナウイルスに感染した場合の授乳

今回は「産後、褥婦さんが新型コロナウイルス感染が判明した」時、授乳(と児の対応)はどうするかをお話します。

原則、児にも抗原検査・PCRを行います1)。結果陰性であっても濃厚接触者として対応します。

授乳に関しては以下3つが考えられます。

直接授乳:褥婦さん本人がマスクを着用と手指消毒、乳輪回りを清潔にしたうえでの直接授乳は可能と考えます2)。可能であれば、褥婦さんの着衣に触れさせないように直接授乳ができればより良いです。褥婦さんが隔離期間中は、児のお世話をしない時はある程度距離(約2m)をおくとよいでしょう。

搾乳した母乳を別介護者が授乳:母乳栄養は通常どおり行うことを推奨している施設が多いです3)。搾乳した母乳を褥婦さんではなく別介護者が哺乳瓶で飲ませる手段もあります。母乳を冷凍保管する場合は詳しくは看護師および助産師にお尋ねください。

別介護者が人工栄養(ミルク)で授乳:上記どおり母乳栄養を行うことは海外においても問題ないと現時点でいわれています4)が、ご家族にとっては濃厚接触者となる児を今後隔離期間中はできるだけ感染リスクを減らしたいお気持ちもある場合もあります。その場合は濃厚接触者に該当しない方がミルクの授乳をするということになります。ただし、隔離明けに母乳育児を速やかに開始するために搾乳を続けて母乳分泌を維持しておくことは必要です。

濃厚接触者の待機期間については、未就学児は現時点で無症状であっても期間短縮の対象とはならず5日間です。

参考文献

1) 産科診療における感染防御ガイド〜2022年版. 日本産婦人科医会

2) 新型コロナウイルス感染症と母乳育児について. 国立成育医療研究センターHP

3) 新型コロナウイルス感染症と赤ちゃん(濃厚接触者扱い)の対応について. 亀田総合病院・亀田クリニックHP

4) COVID-19: Intrapartum and postpartum issues. UpToDate

文責 院長

ファモチジンの妊娠・授乳中の服用

ファモチジンは胃・十二指腸潰瘍や逆流性食道炎などで処方される薬です。商品名は「ガスター®︎」と言えばわかりやすいでしょうか。

実際の処方としては1回20mg, 1日2回(朝・夕食)となります。

作用機序

胃酸は胃の壁細胞にあるヒスタミンH2受容体にヒスタミンが作用することで分泌されます。

ちなみに胃酸の分泌を高める食品は脂肪分の多い物、柑橘類、香辛料、コーヒー・紅茶が挙げられます。

ファモチジンはH2ブロッカーと言われ、作用(ヒスタミンがH2受容体に結合すること)を妨害することで、胃酸の分泌を抑えます。

妊娠・授乳中の服用

一般的にH2ブロッカーは腎機能正常者での副作用発現は低く、まれに血小板減少をきたすことが報告されています。

妊娠中は「有益性投与」です。ただし、催奇形性が報告されていないことから実際の現場では妊婦さんに処方されることはよくあります。褥婦さんにとっても”HALE’S MEDICATIONS & MOTHERS’ MILK 2021″によるとRID(Relative Infant Dose:薬物の新生児へ影響を示す指標)は1.9%とかなり低く「最も安全:L1」の位置づけですので、ファモチジンの内服後に授乳を控える必要はありません。

文責 院長