新型コロナワクチン非接種妊婦の予後

現在、オミクロン株による新型コロナウイルスが猛威を奮っている状況で、にしじまクリニックにおかかりの妊婦さんやそのご家族も例外ではありません。当院も埼玉県産婦人科医会のリエゾンシステムに基づき、感染者や濃厚接触者に毎日健康状態を確認させてもらっています。

以前から基礎疾患もつ方や妊娠中の方は、新型コロナウイルスに感染すると予後不良とされていましたが、とりわけワクチン非接種だとより危険であることがスコットランドのおよそ8万8000人妊婦の追跡調査で示されました。

https://www.science.org/content/article/covid-19-starkly-increases-pregnancy-complications-including-stillbirths-among?utm_campaign=Gadi&utm_source=AAAS&utm_medium=Facebook

ワクチン接種が始まった2020年12月以降にスコットランドで妊娠した8万7694人が対象(2021年10月までの追跡調査)です。

新型コロナウイルスに感染し、1ヶ月以内に出産した620件のうち、14件が子宮内胎児死亡もしくは新生児死亡が起こったと報告しています。その14件全てがワクチン非接種妊婦であったとのことです。

この(周産期)死亡率は1000件出産のうち22.5という比率になり、スコットランドの本来の1000件出産のうち5.6の比率を大きく上回ります。

また新型コロナウイルスに感染した妊婦は、早産率が2%ポイント上昇したとも報告しています。

新型コロナウイルスに感染し集中治療が必要になった妊婦の98%がワクチン非接種とのことでした。

(院長執筆)

生まれた後の赤ちゃんの頭の形について

こんにちは、副院長の石田です。
産婦人科では通常、ご出産後1ヶ月健診まで赤ちゃんの状態をチェックしますが、その際によくお母さんから出るご相談が赤ちゃんの頭の形のことです。絶壁になってしまったり、左右で形が違ったりすると見た目もさることながら赤ちゃんの発達に影響が出るんじゃないかと心配になりますよね。そこで本日はこの件についてお話しさせていただきます。

赤ちゃんの頭蓋骨は柔らかい

そもそも赤ちゃんの頭ってとても柔らかいですよね。実際に触るとわかるように頭蓋骨はペコペコしているし、頭頂部の前後に大泉門と小泉門という2つの穴まで開いています。これは生まれたばかりの赤ちゃんの頭蓋骨は何枚ものパーツに別れているためです。成長とともにこれらがくっついて隙間のない頭蓋骨になるのですが、これには、赤ちゃんは産道というとても狭い通路を通ってお母さんから出てこないといけないので、分娩時に頭蓋骨が重なり合うようにして頭のサイズを小さくする必要があること、そして赤ちゃんの脳みそは生まれた後もしばらく成長して大きくなるため頭蓋骨の容量も増えないといけないという2つの理由があるためです。こうして生まれてしばらく柔らかいままの赤ちゃんの頭蓋骨は、寝かせておくと接地面が平らになってしまいやすいわけです。加えて向きグセがあったりすると特定の方向に形が歪んでいってしまうんですね。

家庭での対処法

見た目の問題はともかくとしてほとんどの場合では頭の形が多少歪んでいても医学的には脳の発達などに影響は無いとされています 1)。さらにお座りができるようになってくると頭への圧がかからない時間が増えてくるので自然と形が整うことも多いです。ただ、そうは言っても「それなら何でもいいや」とはなりにくく、我が子の頭をできるだけ丸くきれいに仕上げたいというのが親心ですよね。そこで家庭でも試せる対処法として、まずは抱っこがあげられます。特に縦抱きをすると赤ちゃんの頭に圧力がかからなくなるため頭が平らになりにくくなります。抱っこだと腕が疲れてしまうという場合はしばらくうつ伏せにしておくという方法もありますが、うつ伏せ寝は乳幼児突然死症候群のリスクとされていますので、その間は赤ちゃんから目を離さないようにしておきましょう 2)。それ以外では頭の向きを定期的に変えてみたり、首が動くようになったら向きグセがついているのとは反対方向から窓の光や音といった刺激を入れてみるのもいいかもしれません。

まとめ

というわけで本日は赤ちゃんの頭の形についてのお話でした。ここまで特に問題ないよというトーンで解説しましたが、斜頸を含めて医学的なバックグラウンドを伴う頭蓋骨の変形では発達に悪影響が出る懸念があるのも事実です 3)。そういった子の場合、上記のような方法で矯正が難しい時には医師から特別なヘルメットの処方を含めて積極的な介入が提案されることもありますので、うちの子大丈夫かな?と心配になるようであれば積極的に小児科医に相談してみましょう。

1) American Association of Neurological Surgeons: https://www.aans.org/en/Patients/Neurosurgical-Conditions-and-Treatments/Positional-Plagiocephaly
2) Carl Cummings. Paediatr Child Health 2011;16(8):493-494
3) Inaki Pastor Pons, et al. Ital J Pediatr 2021:47:41

経口中絶薬について

こんにちは、副院長の石田です。

先日ラインファーマというイギリスの製薬会社が厚生労働省に経口中絶薬の承認申請をしたことが話題になりました。これまで日本では中絶を希望される女性は外科処置を受けるしかありませんでしたが、本薬剤が使用できるようになると色々な意味で患者さんの負担が軽減すると期待されており注目を集めています。ただ、その一方で国内での経口中絶薬の是非をめぐっては賛否両論あり、さらにそこにイデオロギーやポジショントーク、果ては陰謀論めいたものまで飛び交うことで議論はすっかりカオスになっている印象です。そこで本日はこのお薬がどういうものなのかお話ししてみたいと思います。

2種類のお薬を組み合わせて使います

今回経口中絶薬として承認申請が行われたのはミフェプリストンとミソプロストルという2種類のお薬です。妊娠中は様々なホルモンが分泌されて体が妊娠状態を維持できるように働いていますが、ミフェプリストンはその中でもプロゲステロンという最も重要なホルモンの働きを阻害します。さらに子宮収縮作用を持つミソプロストルという薬を組み合わせることで妊娠が効率よく終了するように設計された治療です。海外のデータでは、これにより95~98%程度の中絶成功率が確認されていますが、日本でも同様の成績が報告されているようです 1)2)3)。ちなみに妊娠10週を超えると成功率が落ちる傾向があるようです 4)。

産婦人科以外や薬局などでも手軽に手に入るようになるのか

薬が使用できるのは初期の正常妊娠であり、それ以外の例えば異所性妊娠(子宮外妊娠)などで使ってしまうと命に関わることがあります。加えて中絶前には医学的な理由で血液検査などが必要になるため処方は産婦人科での診察後にのみされるべきであり、妊娠反応が陽性に出たら安易に薬局で風邪薬みたいに購入できるとは考えない方が良いでしょう。さらに言うと、現在中絶処置ができるのは母体保護法指定医の認定を受けた産婦人科医がいる、入院設備を持った医療施設に限定されていますが、内服薬が承認された場合にそれがどこまで緩和されるのかは議論があるかと思います。

実際、安全なのか?

ホルモン剤ゆえの気持ち悪さとか頭痛なんかはざっくり半分くらいの人に見られますが、重篤な有害事象はおよそ0.1%程度とという統計があります 5)6)。また、帝王切開の既往歴がある女性であっても有害事象や成功率に影響は無いようです 7)。世界的に見れば長い使用実績があることからもとても安全な治療であるということは間違いありません。ただ、これは薬での中絶だからというわけではないのですが、医療介入である以上ゼロリスクということもあり得ません。中絶処置は胎児組織を子宮から剥がしてくる時にごく稀に大出血を伴うことがあります。その他薬に対するアレルギーや処置後に感染症を起こすことなんかもあるので夢の治療と盲信しないこともとても大切です。

まとめ

というわけで本日は経口中絶薬に関する一般的な知見についてご紹介いたしました。上記を読むと安全で有効で便利な治療なんだったら早く導入して!という声が強いのはもっともですね。その一方で、当院で言うと院長や私はそれぞれ海外でのキャリアからミソプロストルを使って誘発分娩や流産処置をした経験があるため導入に対してそれほど抵抗感はありませんが、日本では使用経験が無い医療者の方が多いため慎重になる背景も理解できます。(どんな医療者でも使ったことのない薬や道具を患者さんに導入するのは緊張するもんです。)加えて日本での中絶処置は設備が整った大病院は行っていないことが多く、街のクリニックでの処置がメインとなるため夜間休日に人がいないような診療所では不測の事態にどのように対応するかなど詰めるべき点も多いでしょう。いずれにしても患者さんにとって良い選択肢が増えるのは歓迎すべきことですので、この件についての議論が煽られすぎることなく建設的に進むことを期待しています。

1) Ashok PW, et al. Hum Reprod 1998;13:2962-2965
2) Goldstone P, et al. Aust N Z J Obstet Gynecol 2017;57:366-371
3) Osuga Y, et al. Acts Obst Gynaec Jpn 2021;73(12):1735-1739
4) Hamoda H, et al. Am J Obstet Gynecol. 2003;188(5):1315
5) Chen MJ, et al. Obstet Gynecol. 2015;126(1):12
6) Cleland K, et al. Obstet Gynecol. 2013;121(1):166
7) Dehlendorf CE, et al. Contraception. 2015;92(5):463

子育て本の紹介: 小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

こんにちは、副院長の石田です。

このブログを読んで下さっている方には妊娠中であったり出産を終えて子育て中だったりする方も多いかと思いますが、そんな皆さんは何か育児に関して何か参考にしているものはありますか?自分達の親や周りのママ友、保育園・幼稚園や学校の先生などから貴重なアドバイスをもらえることもあるでしょうし、育児系のネット記事や雑誌にも良いことがたくさん書いてあるかもしれません。もちろん子供の個性や家庭の事情、住む場所や時代によって一つとして正解はありませんが、今回は私が読んで参考になったと思う本を紹介させていただこうと思います。

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

慶應義塾大学小児科教授の高橋孝雄先生が執筆された本です。医者が書いた育児本というと小難しい論文を死ぬほど引用してきて快刀乱麻を断つようにああしなさい、こうしなさいと白黒はっきりつけて書かれていそうですが、本書はそういった余地の無いマニュアル本ではなく、むしろ読み手とその子供を尊重し肯定してくれるような内容になっています。

中身は全4章に分かれており、前半の1〜2章は子供たちのもつ強さや能力についての解説、3章は子供との関わり方に関する提案、4章は子供のもつ強さが先生が経験した実際の患者さんのエピソードとともに書かれていますが、本書を通して一貫して訴えられているメッセージは「生まれた時点で全ての子供は大きな潜在能力を持っている」ということです。誰しも我が子が生まれた瞬間にはその子の存在自体に大きな感動と感謝をするものですが、子供が育ってくるに従って少しずつできること、できないことが目についてしまうものです。しかし筆者の考えではそういったことは長期的な視点に立てば些末なことであり一喜一憂する必要は全くなく、むしろ親の最も大切な役割は子供たちが自分達のペースでゆっくりと成長していくのをどっしり構えて気長に待ってあげましょうというスタンスです。

文中にある「子供の能力は遺伝子に全て書いてある」的な話は身も蓋も無いような気がしてしまいますが、だからこそ親は子供の得意不得意などに責任を感じすぎることはないし、むしろ子供を信じてしっかり愛情を注いでいればあとは子供たちが自分のタイミングでそれぞれに能力を開花させていきますよという筆者からのメッセージは、受験戦争や習い事の数など何かと周りの家庭と比較して焦らされてしまう現代の親子にとっては、子供の未来を最適化するために何が必要なのかを再度冷静に見つめ直すのに良いきっかけを与えてくれるかもしれません。

まとめ

というわけで本日は育児本のご紹介でした。似たような啓発めいた本は他にもありますが、それらと本書が違うのは提言の一つひとつを科学的なエビデンスや高橋先生の臨床医としての経験が裏打ちしており決して空論に終わっていないところです。もちろん冒頭でもお伝えした通り正解がないのが育児であり、そのため本書が必ずしも全てのご家庭にマッチするわけではないと思いますが一読の価値はあると思いご紹介させていただきました。もしご興味のある方は試しに読んでみてください。

出版社のリンクはこちらです→https://magazineworld.jp/books/digital/?83873013AAA000000000

※ちなみに高橋先生とは特に面識はなく、上のリンクも収益化されたアフィリエイトなどではありません。そのため当院と本書に関して特別な利益相反関係はありません。

NCPR Aコースを開催しました

先日、にしじまクリニック内でNCPRのAコースを開催しました。コロナ禍ではありますが、標準感染予防策を行なったうえで充実した講習会となりました。

「Aコース」とは、新生児の気管挿管処置や薬物投与を含めた臨床知識の学習と実技で構成される、高度な新生児蘇生法を習得するためのコースです。

にしじまクリニックの看護師および助産師は、全員このNCPR Aコースを取得してもらっています。生まれた赤ちゃんの救急時の蘇生と安定化は分刻みで行われるためです。

また、クリニックの規模として、どの医師またはどの助産師および看護師から高いかつ偏りのない医療提供を行う事を私院長のモットーとしております。これが当院の患者様が『にしじまクリニックの価値』として感じてくださってくれている一つかと思います。

なお、先月の当院の朝練でもスタッフ全員でNCPRの確認を行いました。ただ大きい講習会を単発で行なって終わらせるのではなく、継続して学習し続けることでとっさの判断と適切な手技が行えるのです。

今後も患者様の安全を高めるために、にしじまクリニック全スタッフはチーム一丸となって医療安全とその質の向上を進めてまいります。