ムズムズ脚症候群

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠すると体に様々な変調をきたすことがありますが、その中でも比較的よく見る疾患について今日はお話ししようと思います。

ムズムズ脚症候群とは

皆さんはムズムズ脚症候群をご存知でしょうか?別名レストレスレッグス症候群とも言われる脚がムズムズして不快になる病気です。動いている時よりも休んでいる最中に起こりやすく特に夜間に発症することが多いため、人によっては眠れなくなったり眠っていても起きてしまうことがあります。体内の鉄の貯蔵量の減少や神経系の異常との関係を示唆する研究はあるものの、この病気の原因は未だにはっきりしていません。具体的な症状としては「脚を小さな虫が這うような感じ」や「脚を動かさずにはいられないムズムズ感」などで、時として痛みを伴うこともあります。通常は妊娠後半に向けて症状が悪くなり、分娩が終わると短期間で改善していきます。

妊娠はムズムズ脚症候群のリスク

妊娠するとムズムズ脚症候群になりやすくなることが知られています。統計によってばらつきがありますが、4〜5人に1人の妊婦さんで罹患するという報告もあり、妊婦さん全体で他人事とは言えない状況です 1)。妊娠自体がなぜ本疾患になるかはやはりよく分かっていませんが、妊娠すると鉄欠乏になりやすくなることや女性ホルモンの増加によるドパミン系への影響、そして神経が圧迫されやすくなることなんかが関係しているのかもしれません 2)3)。

治療

妊娠していることが原因に直結しているので基本的には対症療法でやり過ごしながら分娩を待つことになります。具体的には運動やマッサージなどですが、実際に切迫早産や前置胎盤などが無ければある程度強度のある運動を行うことは症状の改善に効果があることが知られています 4)。また、検査で体内の鉄の貯蔵量が低下していることが確認できる場合には鉄の内服を使用することもあります。それでも症状が改善せず、生活に大きな支障が出ている場合にはベンゾジアゼピンという抗てんかん薬の一種を使用することもありますが、副作用もあるため使用については慎重に検討されることになります 5)。

まとめ

というわけでムズムズ脚症候群についてのお話でした。どういう経緯でこういう名前の病気になったのかはよく分かりませんが、そのサウンド以上に罹ると結構きついみたいです。気になる症状が出ている人は是非お気軽にご相談ください。

話は逸れるけどムズムズ脚だけでなく、「ギックリ腰」とか「もやもや病」みたいに茶化したような名前のくせに健康に対するインパクトが大きくて釣り合ってない病気って結構ありますよね。すごくしんどいのに病名のせいで損した気分です。

1) Chen SJ, et al. Sleep Med Rev. 2018;40:43.

2) Minar M, et al. Sleep Med. 2015 May;16(5):589-92.

3) Pereira JC Jr, et al. Med Hypotheses. 2013 Feb;80(2):205-8.

4) Aukerman MM, et al. J Am Board Fam Med. 2006 Sep;19(5):487-93.

5) Picchietti DL, et al. Sleep Med Rev. 2015;22:64.

おむつかぶれ

こんにちは、副院長の石田です。

産後1ヶ月健診まではお母さんだけでなく赤ちゃんのチェックも産科ですることが多いですが、その中でも多いご相談におむつかぶれがあります。見た目に痛々しい時もあるためご両親もドキドキしてしまうかもしれませんね。そこで本日はおむつかぶれのあれこれについてお話ししたいと思います。

おむつかぶれとは

おむつかぶれは新生児や乳児にとって最も多い皮膚疾患の一つです。おむつが触れている部位に皮膚炎が起こって赤くなったり不快感をもたらしたりするわけですが、原因としてはおむつ内の湿度の上昇やおむつとの摩擦、皮膚表面のpHの上昇、尿や便に含まれる酵素による皮膚の障害などが言われています 1)。報告によって幅がありますが、20%以上の赤ちゃんがおむつかぶれになってしまうと考えられるため、是非対応を知っておきたいところです 2)3)。

おむつかぶれの予防

あいにく確実に効果的なおむつかぶれの予防法は確立していません。使い捨てのおむつの方が洗って使うおむつよりも良いのではないか?という研究もありましたが、結果的にどちらが優れているという結論は出なかったようです 4)。摩擦が良くないのは間違いなさそうなので、おむつ交換の際にはできるだけ優しく拭いてあげることが大事ですが、その際に使用するのは市販のお尻拭きでも綿を湿らせたものでもどちらでも差は無いようです 5)。きれいにした後で乾かす時には擦らずにタオルを優しく押し当てるようにしましょう。

おむつかぶれの治療

それでもおむつかぶれになってしまった場合には保湿剤などを使用することになります。日本では一般的に亜鉛華単軟膏(サトウザルベ®︎)やワセリンなどが使用されることが多いですが、いずれにしてもクリームやローションよりはこれらのベタっとした塗り薬の方が取れにくい上に皮膚への刺激が少なくて良いとされています 6)。それでも良くならない場合にはステロイドの塗り薬を使用することもあります。「ステロイド」と聞くと怖くなってしまうご両親も少なくないかもしれませんが、適切に使用されれば安全性も高く効果も期待できる薬ですのでしっかりと担当医に話を聞いてみてください。

カンジダに注意

おむつかぶれをこじらせるとカンジダというカビ菌が表面で繁殖して悪さをすることがありますが、そうなると上記の治療では良くならないので別の薬に変える必要が出てきます。カンジダに感染してしまったかどうかの見分けは簡単ではありませんが、一つの目安としておむつかぶれと違って皮膚の皺の中も全て赤くなってしまうという所見があります。なかなか良くならないおむつかぶれで赤みが強くなってきたと感じた時には皺の溝もチェックしてみましょう。

まとめ

というわけでおむつかぶれについてでした。カンジダ以外にもとびひなどで重症化することもありますので、赤ちゃんのお尻が気になる時には遠慮せずに産科や小児科で相談してくださいね。

1) Andrew N Carr, et al. Pediatr Dermatol. 2020 Jan;37(1):130-136

2) Shazia Adalat, et al. Pediatr Dermatol. Sep-Oct 2007;24(5):483-8

3) Li CH, et al. J Int Med Res. 2012;40(5):1752-60

4) Baer EL, et al. Cochran Database Syst Rev. 2006 Jul 19;(3):CD004262

5) Lavender T, et al. BMC Pediatr. 2012;12:59.

6) Atherton DJ. Curr Med Res Opin. 2004;20(5):645

既往帝王切開後の経腟分娩(TOLAC / VBAC)をお考えの方へ

こんにちは、副院長の石田です。

全国で毎日新しい命が誕生していますが、現在日本ではおよそ20%くらいの赤ちゃんが帝王切開で生まれてきます。一度帝王切開が行われるとそのお母さんに関しては次の妊娠でも帝王切開での出産が望まれるわけですが、中には経腟分娩を希望される方も少なくありません。というわけで本日は既往帝王切開後の経腟分娩についてお話ししようと思います。

TOLAC / VBACについて

帝王切開を経験した妊婦さんが経腟分娩される際に良く出てくる言葉に“TOLAC“や“VBAC“があります。TOLACとはTrial Of Labor After Cesareanの略で、帝王切開後の経腟分娩を試すことを指します。一方でVBACはVaginal Birth After Cesareanの略ですが、こちらは帝王切開後でも経腟分娩できましたってことですね。要はTOLACをやってみて成功したらVBACと呼ばれるということなんです。紛らわしい。

TOLAC / VBACのメリット、デメリット

TOLACのメリットはなんと言っても成功した時に産後の体力回復が早かったり、帝王切開による術後合併症を回避できる点にあります。当院では帝王切開後は6日間の入院期間を設けていますが、経腟分娩であれば4日目には退院できます。産後の痛みはさておき手術による術後疼痛などもありませんし、一般的に帝王切開と比べて後が楽に過ごせることが多いです。手術による腸や膀胱などの腹腔内臓器の損傷なども経腟分娩であればありません。一方でTOLACを行う際に最も心配されているのは子宮破裂です。一度帝王切開で切られた子宮は切開部が治るときに薄くなる傾向があるため、次の妊娠で陣痛などで刺激が加わるとそこが裂けてしまうことがあるんですね。そうなると母児ともに命に関わることがあります。

TOLACのリスク評価

子宮破裂のリスクを正確に評価するのは難しいですが、通常のTOLACにおいてはおよそ0.5%程度とされています 1)。しかし、この数字は患者さんの前提条件によって上下することが知られています。例えば前回の帝王切開の際に子宮を一般的な体下部横切開ではなく縦に切った場合は破裂のリスクが約2〜3倍になることが知られています 2)。その他、赤ちゃんが大きい、予定日を過ぎてしまった、前回の帝王切開の際に子宮の傷が1層縫合だった、前回の帝王切開から今回の妊娠までの期間が短い、複数回の帝王切開歴があると言ったことも子宮破裂のリスクを上げる可能性があるため注意が必要です 3)4)5)6)。

TOLACをした方が良いのか

TOLACは諸外国では比較的広く試みられていますが、だからと言って必ずしもその優位性が日本人に当てはまるとは限りません。まず、日本の帝王切開に関しては衛生的な環境下で世界でもトップレベルの安全性が担保されています。加えて国民皆保険制度のもと品質に対して安価に受けることができるうえ、医療保険に加入されている方では補償内容によってはほぼ無料となる場合もあります。帝王切開は術後の癒着などのリスクから3回程度までを目安に案内されることが多いですが、晩婚、晩産化の流れもあって日本では4人以上出産される女性は少ないため子宮破裂のリスクを負ってまでTOLACを行う必要があるかどうかはそれぞれのご家庭の家族計画を含めて慎重に検討されることをお勧めいたします。

にしじまクリニックでのTOLACの進め方

当院では上記を踏まえてできるだけリスクを抑えた形でTOLACをお受けしています。具体的な流れとしては、ご本人とご家族からの希望をいただいた上で当院独自の基準に照らし合わせながらリスク要因を慎重に検討し、その時点でのTOLACの可否を判断します。TOLACについて相談したいという患者さんにはじっくりとお時間をとって疑問にお答えできるようにオンラインでの相談窓口を4月から開設いたしましたので是非当院のホームページをご参照ください。他施設から転院されてくる方では遅くとも妊娠16週頃からは当院での妊婦健診をお願いしていますが、これは「TOLAC可能」の判断が妊娠経過の中で変わり得ることや、リスクの高いお産になるため時間をかけてゆっくり患者さんとの信頼関係を築いていくことが必要であるためです。その後の経過も問題無ければ自然の陣痛発来を待つことになりますが、当院では予定日を迎えても陣痛が無い場合には誘発分娩は行わずに帝王切開とさせていただいています。

まとめ

VBACが成功するかどうかはやってみないと分かりません。スムーズに進行して下から生まれれば普通のお産と同じように終わりますし、逆にTOLACの最中に分娩が進まなくなってしまう、赤ちゃんの調子が悪くなる、その他母児にとって危険な状況となるような場合には躊躇なく帝王切開に切り替えることになります。ただ我々としては患者さんがTOLACを希望され、それが可能と判断できた場合には安全に最大限配慮しながらできるだけご希望に沿った形で進めたいと思っています。当院でのTOLACをご希望の方は是非お問い合わせください。

1) Guise JM, et al. Obstet Gynecol. 2010;115(6):1267

2) Landon MB, et al. N Engl J Med. 2004;351(25):2581

3) Landon MB. Semin Perinatol. 2010;34(4):267

4) Landon MB, et al. Obstet Gynecol. 2006;108(1):12

5) Roberge S, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2011 Oct;115(1):51-10

6) Al-Zirqi I, et al. Am J Obstet Gynecol. 2017;216(2):165.e1

分娩第1期潜伏期の疼痛緩和

分娩のための入院が長時間となる場合、とても大変ですが時にはお薬を利用して痛みの緩和や休憩を用いることも必要な場合があります。

にしじまクリニックでは分娩における薬物による疼痛緩和として、硬膜外麻酔による無痛分娩のほか、

・オピオイド鎮痛薬(ソセゴン®︎)

・ゾルピデム(半減期の短い睡眠薬)

の頓用により治療的疼痛緩和(therapeutic rest)をはかることがあります。

まずは『陣痛発来』と『分娩第1期潜伏期』の定義を確認しましょう。

陣痛発来の診断:子宮収縮が周期的でかつ子宮頸管の熟化を認める

分娩第1期潜伏期:陣痛発来〜子宮口5cmの期間

子宮口6cm以降から『分娩第1期活動期』とし、子宮口全開大まで分娩スピードが上がります。

分娩第1期潜伏期は数時間から数日を要することもあります。しかしながらそれは「遷延分娩」とは診断されません。産婦が分娩第1期潜伏期の陣痛の対処が困難な場合、”therapeutic rest”としてペンタゾシン(ソセゴン®︎)を用いることがあります。

ペンタゾシンは非麻薬性のオピオイドで、陣痛以外に術前術後の疼痛緩和などに他科でも幅広く用いられる「痛みどめ」です。

分娩におけるペンタゾシンの使用は、1970年以降の無痛分娩として使用され始めたとされており1)、当院でも広義の無痛分娩として扱っています。硬膜外麻酔と異なりすぐに投与(主に筋注)が可能であり、また分娩経過時間を延長することはありません2)。

ちなみに海外では麻薬のモルヒネを陣痛に対するtherapeutic restとして5〜10mgの筋注や静注で用いられることがあります3)。いずれにせよ、「痛みどめ」によるtherapeutic restはエビデンスのある分娩管理方法の一つであることをご理解いただければと思います。

(院長執筆)

参考文献

1) 木村尚子. 20世紀後半の日本における無痛分娩法普及の試みと助産婦への影響

2) ALSOチャプターF

3) UpToDate: Latent phase of labor

10代前半に子宮頸がんワクチンを受けるもう一つのメリット

こんにちは、副院長の石田です。

2月末にシルガード9®︎という9価ワクチンが発売されましたが、既に何人もの患者さんからお申し込みをいただいています。公費対象の方は従来の4価ワクチン(ガーダシル®︎)での接種を選ばれることも多いですが、いずれにしても今のところ当院では大きな副反応はありません。さて、このブログでも複数回に分けて子宮頸がんワクチンの接種をお勧めしていますが、本日はワクチン接種を通じて得られる副次的な効果についてお話ししようと思います。

ワクチンをきっかけにかかりつけの産婦人科をつくれる

日本での子宮頸がんワクチン接種が公費で対象となるのは小学校6年生からですが、まだ11〜12歳の女の子だと体調を崩した時には小児科や内科は受診しても、産婦人科にかかることは多くありません。プライバシーの高い診療が必要な分野でもあるため思春期の女の子にとってはよほどのことが無い限り受診すること自体に強い抵抗感があると思うので、そういう意味でかかりつけの産婦人科をつくるのは簡単なことではないでしょう。しかし、ワクチンであれば最低限の問診のみで下半身の診察は無く受診することができるため、そのハードルを大きく下げることができます。

なぜ10代前半からかかりつけの産婦人科を作ったほうが良いのか

現代を生きる女性にとって生涯一度も産婦人科にかからないということはほとんどあり得ません。思春期に入って本格的に生理が始まれば生理痛や出血に悩む方は少なくありませんし、恋人ができて避妊を考えるようになったり、スポーツや受験などで生理をずらす必要が出てくることもあります。20歳を迎えると子宮頸がん検診も始まりますし、その後も家族計画に関する相談、妊娠・出産や婦人科疾患、50歳前後になると更年期症状などもあります。時として避妊に失敗してしまったり、場合によっては異性から乱暴を受けてしまったなどの性的な問題では身近な人にも相談しにくいことがあるかもしれませんが、気がついたらお腹が大きくなって取り返しがつかない状況になってしまう可能性もあります。そんな時に信頼できるかかりつけの産婦人科があると、人生が救われることもあるかもしれません。このように産婦人科は特殊な診療科で、一般的な医療インフラとしての機能だけでなく日々のお悩みの相談所であったり、時として緊急対応施設としての性格もあるのです。そういう意味で、すぐに相談できる産婦人科の診察券を思春期の頃から一枚持っておくことは、女性の人生にリスクヘッジを効かせるだけでなく、選択肢を広げてより豊かな人生を送るための大切なステップであると確信しています。

まとめ

なんだか上の文章を読み返してみたら情報商材屋さんのような独特な胡散臭さが否めない感じになりましたが、かかりつけの産婦人科を作っておくのが大切なのは間違いありませんし、そもそもそれ自体は年会費がかかるわけでもなくほぼノーリスクです。最初のきっかけが子宮頸がんワクチンである必要はありませんが、例えば中学生になるくらいのタイミングで親と一緒に信頼できる産婦人科を探してみるのは、重要な家庭内教育であるとともにいざという時の保険にもなると思います。
当院は分娩施設のため妊産婦さんが多いですが、一方で思春期の患者さんのご相談も年々増えています。ワクチン以外でも生理痛、中高生アスリートの無月経、思春期の避妊、月経移動、性病の検査など幅広くお受けしていますので、何かあればお気軽にご連絡ください。