骨盤計測について

骨産道を評価するための骨盤計測について本日は説明します。

骨産道はすなわち『小骨盤』のことをさし、ざっくり言うと恥骨と仙骨・尾骨のスペースでお産の時に赤ちゃんが通る所です。

赤ちゃんは頭が大きく、一方骨産道はご想像通り形が個々に既に決まっているので、「狭くないか」を判断する必要があります。小骨盤が狭いと経腟分娩が困難な可能性があるからです。

骨盤計測が必要な要因を知っておくとよいかと思いますので、以下羅列させてもらいます。

・身長150cm未満の低身長

・初産婦で37週以降の健診時、児頭が恥骨より上の位置のまま

・巨大児の分娩が予想される

・著明な体重増加などがあり分娩停止の可能性がある

・遷延分娩(難産)の既往がある

・初回のTOLACにのぞむ

方々などが骨盤計測の適応となります。以前当院では初産婦の方々全例に骨盤計測を行なっていましたが、現在は上記に当てはまる方々に原則保険診療として評価を行っています。

一般的に『骨盤計測』といえば、X線による骨盤評価のことをさします。

骨盤X線の撮影方法は2つあり、

・『Guthmann(ガットマン)』法:骨盤の側面を撮影

・『Martius(マルチウス)』法:骨盤の入口面を撮影

があります。

小骨盤腔最初の『骨盤入口面』の前後径は「恥骨上縁〜仙骨の岬角(こうかく)」の径線です。岬角は腰椎から仙骨として曲がる部分となります。

児頭は第1回旋で縦長の児頭が屈曲してまず横向きに骨盤入口面へ入ります。よって

児頭に対して、骨盤入口面のスペースに余裕がないと、児頭は小骨盤への進入および児頭の回旋が困難となってしまうのです。

骨盤入口面〔産婦人科研修の必修知識2016-2018から〕

(院長執筆)

参考文献

産婦人科研修の必修知識2016-2018

男性の育休

こんにちは、副院長の石田です。

ちょっと前になりますが、小泉進次郎環境大臣が育休を取得するということで男性の育休取得についての議論が巷で盛り上がりました。女性の社会進出について毎日のように話題が出ますが、そのためにも男性の育児における役割がとても大切です。そこで日本ではまだまだ一般的とは言えない本件について、具体的にはどんなことになっているのかちょっと調べてみました。

日本の育児休業システム

育児休業とは育児介護休業法に基づいて赤ちゃんが1歳になるまで取得できる休業制度です。お母さんは出産後8週間までの産後休業が終わった後に育児休業に移行するのに対して、男性は出産直後より申請することができます。男性の育児休業に関しては厚労省がイクメンプロジェクトの中で「パパ休暇」と題して推進を図っており、男女で一緒に取得した場合には「パパママ育休プラス」と言って産後1年2ヶ月まで育休期間が延びるという特別措置もあってとにかく男性の育児休業取得率を向上させようと頑張っているのが分かります 1)。しかし何となくニュースとかでも取得率が低いようなことが言われている上記の男性育児休業システムは世界と比べてどうなんでしょうか?

日本と世界の男性育休事情

2019年6月にUNICEF(国際連合児童基金)が世界の国々のシステムを比較してまとめた統計によると、実は日本の男性育児休業システムは世界でもトップクラスであることが示されています。full-rate equivalentで直した有給の育休取得可能週数(例えば給料の50%が補償された休業が20週間取れる場合の計算は20週×50%=10週間)だと、日本は30.4週間で2位の韓国の17.2週間を大きく引き離して世界一となっています。何となくその辺で進んでそうなノルウェーやフィンランドが10週前後であることを考えるとこれはすごいことなんですね。

それにも関わらず日本人男性の育休取得率が2017年の段階で5%程度しかないことがよほど理解し難かったのか、同レポート内で「日本人男性に聞きました!育休を取らない理由ランキング」みたいなコーナーをわざわざ設けて晒し上げられていました。

ちなみにお隣の韓国も似たような感じで取得率は低いみたいです 2)。また、OECD(経済開発協力機構)の出しているレポートによると北欧のフィンランド、スウェーデン、デンマークはそれぞれ70%台後半のようで流石だなと感じます。ちなみに1位はスロベニアの92%、OECD諸国の平均は55%ということでした 3)。

まとめ

日本のお父さん達も、もっと育児に参加したいと思っている人は多いはずですが、その一方で育休を取りずらい社会的状況があるのは事実で、結局はその根本的な原因に手をつけなければ国がいかに制度を整えようと、若きカリスマ政治家が育休を取って見せようとも育休取得率向上の実現は簡単でないように感じます。ただ、男性の育休取得は母乳育児率の向上 4)や子供が成長してからの父親の育児参加率の上昇 5)などいくつかの点で良い効果があることが分かっているので、社会のみんなで育休を取りやすい環境作りを目指していければと思います。

1) 厚生労働省 イクメンプロジェクト:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000169713.pdf

2) Yakaterina Chzhen, et al. Are the wold’s richest countries family friendly?. UNICEF June 2019: https://www.unicef-irc.org/publications/pdf/Family-Friendly-Policies-Research_UNICEF_%202019.pdf

3) OECD family database: https://www.oecd.org/els/family/PF2-2-Use-childbirth-leave.pdf

4) Flacking R, et al. Scand J Public Health. 2010 Jun; 38(4): 337-43

5) Nepomnysaschy L, et al. Evidence from the American ECLS-B. Community Work Fam 2007; 10: 427-53

血小板とは

本日は血小板についてのお話です。

血液は細胞成分である血球と、液体成分である血漿から構成されます。

血球は赤血球、白血球、血小板があり、いわゆる「採血」でそれらの数値をみることができます。

血小板は血液1μL(mm3)中に15〜40万個存在する小さな細胞で、寿命は8〜10日と赤血球に比べて寿命が短いのが特徴です。

「輸血」で思い浮かべると「赤」を思いうかびますよね。血小板輸血については「黄色」い製剤で、寿命や保存の扱いが難しいことから、血小板輸血製剤は献血などの採血をしてから4日しか保存期間が認められていない1)貴重なものと言えます。また血小板輸血をする際の点滴ラインも専用のものを用います。

血小板の機能は(一次)止血を担うことです。よって血小板の数が少ないと、出血を必ず伴う出産の時に血小板による止血機構が働かないと困りますよね。また無痛分娩や帝王切開では麻酔のために背中から針を刺すので、一般的に血小板数が10万未満の場合は慎重な判断を求められることがあります。

特に妊娠では血小板数は減少する傾向のある方々もいらっしゃるので、健診で定期的な採血を行うことは重要です。

もう少し血小板の機能について述べると、止血機構として2つの機能・働きがあります。それは

・粘着能:血小板以外の物質と結合すること

凝集能:血小板同士がお互いに結合すること

です。

血小板の凝集には凝集を誘発する物質もまた存在します。その物質を阻害する働きのある薬剤としてアスピリンがあります。アスピリンの服用により凝集抑制、いわゆる「サラサラ」の血液性状が起こるのです。不育症からやっとの思いと治療で妊娠された方々は妊娠中もアスピリンを服用していることがあります。妊娠後半期以降は産前の出血リスクを考えなければいけないので、胎児の発育等問題なければ一般的には内服を終了してもらいます。

この凝集を阻害するのはアスピリンなどの薬剤性だけではなく、血管内皮の障害をもたらす「妊娠高血圧症候群」も重要なトピックになりますが、これに関してはまた後日お話させていただきます。

(院長執筆)

参考文献

1) 日本赤十字社ホームページ(http://www.jrc.or.jp/mr/blood_product/about/platelet/)

カンガルーケア

こんにちは、副院長の石田です。

生後すぐに赤ちゃんを肌と肌で抱っこするカンガルーケア。どこの分娩施設でも母親学級などでご案内があり、マタニティー雑誌などでも頻繁に特集が組まれたりと知らないお母さんはいないくらい有名な単語ですが、その一方で稀にですが赤ちゃんが突然死したりと悲しいニュースを見ることもあります。今日はそんなカンガルーケアについて少しお話ししたいと思います。

そもそもカンガルーケアって何なのか?

Skin-to-skin contactとも呼ばれ、裸の赤ちゃんを同じくはだけさせたお母さんの(別にお父さんでもいいんだけど)胸の上に乗せて早期に親子の接触を図る技術になりますが、元々は医療行為がカンガルーケアの意味合いでした。

1976年にスウェーデンで早期接触として初めて紹介された1)という話がありますが、実際に臨床現場で医療として提供されたのは1978年のコロンビアでした。首都ボゴタの新生児集中治療室に勤務していたDr. Reyという教授が、当時の経済危機を背景に人的、設備的な不足の中、非常に高かった未熟児の死亡率を改善したいと考えて導入したのがカンガルーケアだったのです2)。

一般的に未熟児は体温調節機能が脆弱なため簡単に低体温になってしまい、それがもとで様々な合併症で命を落とすことが問題となっていました。しかし、カンガルーケアによって直にお母さんの体温で温めることにより低体温症を劇的に減らすことができたほか、それに伴って感染症や気道合併症をはじめとした数々の疾患に対する罹患率が減少していきました。また、その体勢から授乳が容易であり赤ちゃんの栄養状態も改善し、同時にお母さんの満足度や子育てに対する自信の向上にも繋がっていったため徐々に世界中に広まっていきました。要するに、カンガルーケアは最初は人材や設備の整わない途上国での未熟児に向けた医療行為だったんですね。その後も世界中でカンガルーケアの有効性を報告する研究が相次ぎ、2016年にはCochrane reviewでそれらの研究がまとめられ、医学的な効果が改めて立証されることとなりました3)。

日本でのカンガルーケア

現代日本の分娩施設は人的、物質的設備が整っている医療施設がほとんどですので、赤ちゃんが低体温症で亡くなることはほとんどありません。特に正期産で問題なく産まれてきた赤ちゃんにとってカンガルーケアに医学的な意味はあまりありませんが、親子関係の強化、確立を目的として全国的に広がっています。(ただし、母乳率の向上、母乳期間延長に対する有効性、母親の愛着行動スコアの上昇などは報告されています4)。) そのため日本でのカンガルーケアは赤ちゃんの安全が最優先事項であり、絶対に行わなければいけないものではありません。ちなみに少し古いですが、2010年に結果が発表された調査によると全国205施設のカンガルーケア中の事故による重症例受け入れで16例が新生児集中治療室に入院、うち9例が死亡を含め重篤な後遺症を残したということでした5)。全体からするととても低い割合ではありますが、そういった悲しいことが起こらないように、これらの結果を受けて各施設では赤ちゃんにモニターを着ける、必ず医療者が付き添うなどの対応が取られています。

カンガルーケアはするべきか

愛着形成を重要視する医療施設やママ友からカンガルーケアを強く勧められて、何となくやらなきゃいけないものとプレッシャーを感じているお母さんも少なくありません。しかし、カンガルーケアの本質的には(少なくとも日本で特に問題なく産まれてきた)赤ちゃんにとっては必須ではないし、これをやらないと親子になれないとか絆が弱くなるわけでもありません。

その一方でカンガルーケア自体は先進国でもメリットの大きい技術です。初めて赤ちゃんと対面して実際に肌を合わせて抱っこするという行為は女性にとっても、それを見守る男性にとっても親としての自覚を強く芽生えさせるし、何よりとても良い思い出になります。

当院ではご希望のあるお母さんには安全に配慮しながらカンガルーケアを提供しています。「どんな感じかまずは話を聞いてみたい!」といった軽い感じで全く問題ありませんのでご興味のある方は是非スタッフまでお声かけください。

1) De Chateau P. Birth and Family Journal 1976; 3: 149-55

2) Rey SE, et al. Proceedings of the Conference 1 Curso de Medicina Fetal y Neonatal. 1981; Bogota Colombia: Fundacion Vivar, 1983. (Spanish)

3) Conde-Agudelo, A; Diaz-Rossello, JL (23 Aug 2016). The Cochrane Database of Systematic Reviews (8): CD002771

4) Elizabeth R Moore, et al. (18 Jul 2007). Cochrane Systematic Review: CD003519

5) 渡部晋一、分娩室における出生直後のSTS(カンガルーケア)の安全性について ー全国のNICUへのアンケートをふまえてー 倉敷中央病院 第28回周産期新生児医学会周産期学シンポジウム 京都 2010

切迫早産(総論)

切迫早産(Threatened Preterm Labor/Delivery)とは

早産期(妊娠22週〜37週未満)に下腹痛、性器出血、破水などの症状に加え規則的な子宮収縮があり、内診では子宮口開大などが認められ早産の危険性が高い状態を切迫早産といいます。

文字通り早産が「切迫」していることを通常示すのですが、実際の臨床ではこの状態におちいらないよう健診での検査や処方、または入院管理などを行います。

早産の原因

絨毛膜羊膜炎による切迫早産と、前期破水が自然早産の約2/3を占めます。

早産のハイリスク群

・早産の既往

・多胎妊娠

・子宮頸部円錐切除後

・子宮頸管長の短縮(妊娠24週の経腟超音波で、頸管長がおおよそ30mm未満だと35週以前の早産リスクが高まる報告があります1))

・細菌性腟症

・前期破水

・喫煙(喫煙本数と早産率が明らかな相関関係があると日本産婦人科医会でも公表しています2))

細菌性腟症から腟炎をきたし、その後絨毛膜羊膜炎となる

乳酸桿菌を主とする腟内の正常細菌叢が複数の菌種に置き換わった状態を細菌性腟症(BV: Bacterial vaginalis)といい、この状態に炎症が起きると細菌性腟炎となるのです。

炎症が起きるとプロスタグランジンという物質が分泌され、子宮が収縮します。

その後蛋白分解酵素である顆粒球エラスターゼが分泌され、頸管熟化の要因となるのです。

子宮頸管熟化機構

子宮頸部は主にコラーゲン線維で構成され、これらが分解することにより組織が軟化・熟化しひいては子宮頸管長の短縮につながります。

炎症によりサイトカインという物質が増加し、これがコラーゲン線維・組織が分解する働きを起こします。加えて先ほど述べたプロスタグランジンが生成・分泌され、子宮収縮をもたらすのです。

(院長執筆)

参考文献

1) Iams JD. NEJM 334(9)567, 1996

2) 左合治彦. 飲酒、喫煙と先天異常 https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/SENTEN/kouhou/insyu.htm