新年度からの変更点、シルガード9の定期接種方法

本日令和5年4月1日の新年度から、制度にいくつかの変更があります。

婦人科の制度変更として本日からHPVワクチンの『シルガード9』が定期接種として導入されました。

▪️小学校6年生〜15歳未満の女子

2回接種で完了

▪️15歳以上の女子

従来どおり3回接種(ただし15歳になるまでに既に『シルガード9』を1回接種していれば、2回での接種が完了)

▪️既に4価ワクチンの『ガーダシル』を1回または2回接種した女子

次回も同様に『ガーダシル』を接種する、もしくは『シルガード9』の接種も可能

となります。

『シルガード9』も『ガーダシル』も、当院で既に多くのお子さんが接種、またはキャッチアップ接種を済ませています。適時の接種を行えば子宮頸がんの予防効果は70〜90%と言われていますので、接種対象でまだ行なっていない方は当院へご相談いただければと思います。

他、新年度における産科の制度変更として、ご加入の健康保険から支給される出産育児一時金が42万円から50万に増額となり、にしじまクリニックではその分産婦さんの負担が減ることになります。例えば自然経腟分娩の場合、分娩予約金をお支払いしていれば、退院時のお支払いは19,000円から、となります。

https://nishijima-clinic.or.jp/info02.html

分娩のご予約のお問い合わせが多くなることが予想されますので、ご妊娠され、当院で分娩を希望される場合は早めの受診をお願いできれば幸いです。

分娩予約状況につきましては当院HPの「お知らせ」からご確認いただけます。https://nishijima-clinic.or.jp

文責 院長

イスラム教と出産

こんにちは、副院長の石田です。

普段からたくさんの患者さんに当院をご利用いただいておりますが、最近では外国人の患者さんをお手伝いする機会が増えてきたように思います。そういった方々は国籍や言語ということだけでなく、文化や宗教など様々な違いのために個別の対応を必要とすることもあり、当院としては自分たちで勉強するだけでなく患者さんご本人やそのご家族にアドバイスをいただきながら医療を提供させていただいております。そこで、多様性が重んじられる昨今でもありますので、ささやかではありますがせっかく得られた知見を皆さんとシェアできればと思います。というわけで本日はイスラム教と妊娠、出産についてのお話です。

簡単にイスラム教とは

イスラム教は西暦610年ごろにサウジアラビアのメッカという場所にいたムハンマドという商人が創始した宗教です。ご存知の方も多いかもしれませんが、唯一神として崇められているアッラーはユダヤ教、キリスト教の神様であるヤハウェと同一であり、その意味でこれら3つの宗教は派生関係にあります。その時代ごとに絶対的な神様のお言葉を聞く能力を得た預言者(ユダヤ教ではモーセ、キリスト教ではキリスト、ユダヤ教ではムハンマド)が民衆に神の教えを広めたというスタンスですね。イスラム教は主に北アフリカ、中東、東南アジアなどの地域に全部で18億人前後の信者がいるとされています。習慣としては1日5回の礼拝や、日中の断食であるラマダン、食材に特別な配慮が必要なハラルなどが有名ですね。

妊娠、出産における習慣 1)

可能であれば女医さんによる診察が望ましいようで、実際当院の院長が活動していた国境なき医師団でも派遣先がイスラム国家の場合、産婦人科医は女医限定での募集になることがあるそうです。ただ、当院ではあいにく女性の産婦人科医がいませんがそれをご納得いただけることも多いため絶対的な決まりではないのかもしれません。その一方でお産の際には特徴的な習慣があります。例えば生まれた直後に赤ちゃんの耳元で親が信仰の宣言であるAdhanを唱えるのは極めて重要な儀式とされています。また、Tahneekと言って潰したデーツの実を口の中の上顎に塗りつけるという風習もあるそうです。そのほかユダヤ教のように割礼なども行われるそうですが、日本の産婦人科でそこまで提供するのは難しいかもしれませんね。

産後の入院生活

上記の通り、通常ムスリムの方は1日5回メッカに向けての礼拝を行いますが、産後の性器出血がある女性はnifaasと呼ばれ、日々の礼拝はしない決まりになっているということでした。ちなみにこれは生理など他の原因による性器出血でも同様だそうです。
病院で提供する食事はとても気をつかうポイントですが、ムスリム人口が多くない日本ではどのように注意すべきかが難しいですよね。私は以前パキスタン人の友達を自宅での食事に招いた時にどのような食材ならよいか事前に聞いたところ、ムスリムの人たち自身も数ある食材を全て把握することは不可能であるため詳しい説明はできないが、ハラル認証マークのついた食材を使ってくれれば大丈夫だよと言われたことがありました。いずれにしても当院では万全を期して妊婦健診中から調理部のスタッフとの面会を通して細かく打ち合わせていただくようにしています。

まとめ

以上、本日はイスラム教と妊娠、出産についてでした。自分と違うバックグラウンドを持つ方々との触れ合いは、この世界の普段意識してこなかった側面を垣間見ることができて面白いですよね。当院では院長をはじめスタッフ一同患者さんの多様性を最大限尊重できるよう心がけています。必ずしも対応可能なことばかりではないかもしれませんが、文化や宗教だけでなくハンディキャップなども含めて特別なお手伝いが必要な方は是非最寄りのスタッフにご相談ください。

1) A R Gatrad, et al. Arch Dis Child Fetal Neonetal Ed 2001;84:F6-F8

流産手術関連の略語

医療用語に関し、特に私の世代ではドイツ語より英語が主流で教わってきましたが、中には混在して医療従事者間で話されている時があります。今回は流産手術関連の用語の略語について解説していきます。

「アウス」

人工妊娠中絶することを俗語では「堕ろす」と呼んでいますが、

医療現場では「アウス」と呼ぶことが多いです。「アウス」は、ドイツ語で

「掻爬(そうは)」を意味する「Auskratzung(アウスクラッツング), Ausräumung(アウスロイムン(グ))」が由来の和製通俗略語です(*)。kratzenは「引っ掻く」、räumenは「取り除く」という意味の動詞で、Ausは「外へ」を表すので、前者は(子宮内を掻き出すことから)子宮内掻把術、後者は(子宮内容を取り除くことから)子宮内容除去術と訳します。

*Auskratzung、Ausräumungというドイツ語の分離動詞の前綴り部分に相当するところだけで全体の意味が代表されてしまうという、不思議な和製通俗略語です。 ちなみに英語で流産はabotionで人工妊娠中絶は、直訳すればartificial abortionになりますが、英語圏ではTermination of Pregnancy(ToP)などと呼んでいます。

D&C,VA

子宮内容除去術を行う際には頸管拡張(cervical Dilatation)を行うことが多いので、「拡張と掻爬」を英語で「Dilatation and Curettage」と呼び、頭文字をとって「D&C」との略称で呼んでいました。近年は掻爬ではなく、吸引が主流なので「VA(Vacuum Aspiration)」という言葉をよく用います。

KA

人工的に流産させる人工妊娠中絶はKünstlicher Abort(クンストリッシャー・アボルト)なので、略して「KA」と呼んでいます。

実はドイツ語のKは「カー」と発音し、Aは「アー」と発音するので、 KAの正しいドイツ語読みは「カーアー」なのですが、昔から(英語読みで)「ケーエー」と呼ぶ医療従事者もいます。

一方、自然流産のことをドイツ語でSA(Spontanes Abort(シュポンターナス・アボルト)といいますが、「ケーエー」同様に英語の略語読みで「SA(エスエー)」と呼んでいます。ちなみに英語で自然流産はspontaneous abotionで、略語は同じく「SA」となります。

文責 院長

サイトメガロウイルスについて

サイトメガロウイルス(以下 CMV)はヘルペスウイルス科に属し、胎児への先天感染により難聴、視力障害、精神発達遅滞、肝臓・脾臓の腫大などを引き起こす可能性のあるウイルスです。CMV は尿、唾液、血液、涙、精液、腟分泌物、乳汁などの体液から感染します。

成人の初感染は主として性交感染で、一部に経口感染(上のお子さんとの食べ物の共有など)があると知られています。潜伏期は5〜7週です。

母体が感染しても微熱や咽頭痛など、一般的な感冒症状しか認められないことが多いうえに、90%程度は無症状とも言われているため妊娠中の感染を診断するのは非常に難しいとされています。

また、妊娠中に胎児が感染しても正常に発達する場合もあり、逆に無症状で出生してもその後健康問題を起こすこともあります。
日本における妊婦のCMV抗体保有率は 70%程度と考えられていますが、初感染だけでなく再感染や再活性化による胎児への影響も確認されており、妊娠中のCMVに対する感染対策がとても大切です。以下対策として

・上のお子さん達と食べ物や食器の共有をしない

・歯ブラシを共有しない

・玩具などを清潔に保つ

・上のお子さんのおむつ交換後の手洗い

などです。

にしじまクリニックでは出生後にCMVによる先天感染が疑われる所見を認めた(胎児超音波検査異常、低出生体重児、聴覚スクリーニングで正常を確認できないなど)場合は、新生児の尿検査で先天感染の有無を確認いたします。
一般に妊娠初期での初感染ほど児の重症リスクが高まります。妊婦健診中にサイトメガロウイルス感染症が心配な時は、担当医師にお申し出ください。

文責 院長

赤ちゃんのアトピー予防

こんにちは、副院長の石田です。

アトピー性皮膚炎は最も多いアレルギー疾患の一つです。アトピーを発症してしまうとその後に喘息や鼻炎などほかのアレルギー疾患が連鎖的に続くアレルギーマーチを経験することもあり、子供のアトピーをなんとか予防できないかとあれこれ調べるご両親がとても多いです。実際にインターネットで見てみると様々な情報や製品がヒットしますが、医学的に有効とされているのはどのような予防法なのでしょうか?というわけで本日はこの件についてお話ししたいと思います。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返すかゆみと湿疹が主症状のアレルギー疾患です。皮膚のバリア機能が弱いことが原因の一つとされていますが、実際には様々な要因が複雑に絡み合って発症に結びつくと考えられています。調査によると本邦では現在乳児で6〜32%、幼児で5〜27%、学童で5〜15%がアトピー性皮膚炎を罹患しているようです 1)。

アトピーの予防法

アトピーは病気そのものについてまだ分かっていないことも多く、そのため予防法についても世界中の医学者が手探りで試しているような状態です。これまでに母乳栄養と粉ミルクの比較、オメガ脂肪酸の摂取、妊娠中や授乳中の母親の栄養指導など様々なアプローチが試みられましたが、現在に至るまで決定的に有効とされる予防法は見つかっていません 2)。一時期、積極的な保湿の継続がアトピー予防に有効っぽいという報告もあったのですが、その後の検証でこちらも否定的とされています 3)4)。また、妊婦さんとその後生まれた赤ちゃんにプロバイオティクス(乳酸菌とか)を摂取してもらうことで予防できる可能性があるという報告はあるのですが、具体的にどういう人にどの菌株をどうやって投与したらよいかなど具体的なことがよく分かっていないため実用レベルでの推奨には至っていません 5)6)。

まとめ

というわけで本日は「子供のアトピー予防については実用レベルで有効なものは見つかっていません」というお話しでした。「じゃあなんでブログに書こうと思ったんだよ!」ってお叱りをくらいそうですが、今回お伝えしたかったのはむしろアトピーの予防効果を謳うような製品や施術に関しては少し気をつけて見るようにしてくださいねということです。かく言う私自身も生まれてすぐにアトピーを発症し、その後現在に至るまでステロイドを使い続けていますが、自分の経験からも子供のアトピーをどうにかしたいという親の切実さは我が身にしみて知っています。しかし、それと同時に世の中にはそんな親心につけこんで一儲けしようとする人も少なくありません。皆さんにおかれましてはお子さんがアトピーになってしまっても決して自分を責めることなく、まずは積極的に小児科や皮膚科にご相談ください。

1) 日本皮膚科学会 佐伯秀久, et al. 日皮会誌 2021:131(13);2691-2777
2) Howell C Williams, et al. Acta Derm Venereol. 2020 Jun 9;100(12):adv00166
3) Skjerven HO, et al. Lancet 2020; online Feb 19
4) Chalmers JR, et al. Lancet 2020; online Feb 19
5) M Panduru, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2015 Feb;29(2):232-242
6) Wen Jiang, et al. Paediatr Drugs. 2020 Oct;22(5):535-549